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第168話

肌をなぞる指も、名を呼ぶ優しい声も変わらない。 思い出の中の鳴海さん、そのまま。 裸のまま緩く体を重ねて夜を過ごす。 「あなたの息子さん…晴海くん?」 「ん?ああ。そろそろ成人する位かな」 鳴海さんが大きく息を吐く。 「…きっと素敵な人に育ってますよ」 「え?」 「…何でもないです…」 あの子はきっと彼の… …まぁ、いい。 「鳴海さん、いつまでこちらに?」 あの頃と変わらず愛しいこの人は少し眠そうな目をしている。 「うん、一ヶ月位はこっちにいるかな」 「忙しいんですね」 彼は僕の頭に手を伸ばし、髪を撫で付ける。 …気持ちいい…。 「また、会ってくれますか?」 僕と目が合い、目尻が下がる。 「もちろん。僕はそのつもりだよ」 あぁ、目の下に少し皺が出来てる。 お互い歳をとった、そう思う。 直樹と拓巳が成人するにはもう少し時間がかかるが、二人とももう大人。 今、心も体もフリーな僕は再び鳴海さんと恋に落ちてもいいだろうか。 「少し眠ろう、拓…」 優しい声が寝息に変わる。 僕も少しだけ彼と一緒に眠ろう…。 ー了ー

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