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第169話
気になる人がいる。
どこの誰とも分からない人。
凪にも言ってない。
…僕だけの…秘密。
喫茶店でコーヒーを飲む予定は無かった。
凪と待ち合わせをしている時に少し遅れるという連絡を受け、いつもならそこでそのまままつのだけれど、この日は雨が降り出して肌寒かったからコーヒーでも飲んで温まろうと近くのこの店に入店した。
流行りのコーヒーショップは雨が降ってもまずまずの客入りだった。
注文の順番がきて店員に聞き慣れないカタカナの商品を勧められたが無難にホットコーヒーを頼んだ。
「はあ、やっと休める」
窓際の席に腰を掛け、濡れてしまった水色のストールを隣の椅子の背もたれに掛けた。
午後の講義が休講となり、思い立って凪と待ち合わせをした。
平日にデート出来るなんて、気分がアガる。
「ふふ…」
コーヒーカップを両手で包み、暖をとる。
雨が降って服はやや濡れているけれど、そんなに悪い日ではない。
「凪…まだかな…」
「あっ!」
短い叫び声が隣で聞こえ、反射的にそっちを見た。
水色のストールにコーヒーの染みが広がっていく。
「え!何…」
僕はビックリして勢いよく席を立ってしまった。
「すみません…汚してしまって」
大人の男性が僕に謝罪してきた。
これは、凪からのプレゼント。
気に入って大切にしてるのに…。
「…あ…すぐに洗えば…だ…大丈夫」
ストールを手に取り、急いで洗面所に向かった。
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