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第171話
「君は素敵なご両親に育てられたんだろうね」
突然何を言うんだろう。
「ふふ…そうかも知れません。僕の育ての親は愛情深いですから」
僕がそう言うと少し考えた後に名刺を差し出してきた。
「…迷惑かけちゃったから困った事があったら連絡してよ」
両手で受け取った名刺を読む。
「……コーポレーション 役員 源 鳴海 」
「役員っていっても形だけ。普通のサラリーマンだよ」
柔らかく笑うがきっと仕事がよく出来る人なのだろう。
「僕も名前に海がつくんです。桜井晴海と言います」
出会ったばかりの人に名前を教えたら凪は不用心だと怒るだろうか。
「え?偶然だね。高校生?」
「大学生です。もう成人してます」
源さんは驚いた顔をしていた。
童顔の自覚は嫌というほどあったが、そんなに驚かなくてもいいと思う。
「気になるから立ち入った事を聞くけど、嫌なら答えなくていいから。晴海くん、君の実のご両親は?」
「母は事故で亡くなっていて、父については何も分からないんです」
暫く何かを考えるような素振りを見せ、僕を見つめた。
「そうか…すまない。辛い事を言わせてしまったね…」
源さんは深く息を吐いた。
もう、幾度となく聞かれている事だから、そんなに辛そうにしなくていいのに。
今僕は幸せだから。
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