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第172話

「晴海くん、もし良ければ少し話をしてもいいかな」 隣同士の席に座り直して源さんがそう言った。 「いいですけど…もうすぐ連れが来るんです。それまでなら」 構わないよ、と言って源さんは新しいドリンクを注文した。 「僕はしがないサラリーマンなんだ。一ヶ月位こっちにいる予定」 「普段はどちらに?」 「アメリカが多いけど…ヨーロッパに時々行ったり…かな」 源さん、世間知らずの僕でも分かる位にエリートなんじゃ…。 呆気に取られていると今度は僕に質問をしてきた。 「晴海くんは誰と暮らしてるの?」 「恋人…です」 もう会うこともない人だと思うと、正直に言えられた。 「同棲してるのか…羨ましいね」 「源さんはお一人なんですか?あ、モテ過ぎて一人に絞れないとか」 ふふ、と柔らかく笑って僕を見る。 「僕は、ね、最低な男なんだ」 突然の最低発言に失礼ながら僕は多分キョトンとした顔をしてしまったと思う。 「ふらふらして遊び回って、恋人に子供が出来て嬉しいはずなのに何もしなかった」 「…」 自虐的に笑う源さん。 「…そして彼女は一人で子供を産んで、僕から離れていった。当然の報いだよ」 辛そうに話す源さんに、僕は何と言えばいいんだろう。 「後悔してるんですよね?」 「…もちろん…でも…もう彼女はいないんだ…」 源さんの言葉は途切れ、どこか遠くを見つめていた。

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