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第174話
「少しお話ししていいですか?」
紺色のスーツの男性は全く顔色を変えずに どうぞ、と言った。
源鳴海がいつかのコーヒーショップに入るのを見かけて後を追ったのだ。
隣の席に腰掛け、反対側に荷物を置いた。
「何か注文するかい?」
「いえ、すぐに出ますから」
「それで僕に何か?」
柔らかな笑顔で俺の顔を正面から見つめる。
「晴海に近寄らないで下さい。それだけです」
「何を言ってるのか分からないな」
ふふ、と嬉しそうに笑う。
「身に覚えが無いなら結構です」
腰を上げて荷物を持とうとすると腕を掴まれた。
「まだ、いいだろ?」
目から強い意志を感じ、椅子に座り直した。
「晴海くん、いい子だね。優しくて礼儀正しくて、何より芯が強い」
「…」
「…君は晴海くんの…何?」
挑発するような眼差しに俺は苛立った。
「あなたに関係ありません」
「関係ない人に言われた事なんて到底守らないよ」
勝ったようにニヤニヤとこちらを見ている…。
「俺は兄と一緒に暮らしてる」
そう言うと相手が一瞬驚いたような顔をした。
「君が…」
上から下までじっくりと値踏みされるような感じ。
「とにかく兄に関わらないでください」
「弟君にとやかく言われるような事はしてないよ」
始終余裕を見せる相手に腹が立つ。
「…まだね」
俺は握った拳を震わせながら店を出た。
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