175 / 179

第175話

「晴くん、アイツの事気に入ってるの?」 細い手首を掴んでキツい言い方をした。 「突然どうしたの?凪」 晴くんは振りほどくでもなく俺を正面から見つめる。 晴くんの口からたびたびアイツの事を聞くと心がささくれるんだ。 澄んだ目で見られて、俺の子供じみた行動が恥ずかしくなった。 「…ごめん、何でもない」 掴んでいた手を放して背中を向けた。 小さな子供みたいな嫉妬。 「源さんは、そうだな…親戚のオジさんって感じかな」 晴くんも俺も、実の親はこの世にいない。 俺の伯母が母親となって俺達を育ててくれているが、晴くんは肉親と呼べる人が一人もいない。 「晴くん、不用心だ」 この言葉は建て前。 晴くんだって誰かに頼ったり話を聞いて欲しい時があるかもしれない。 でも、それは俺の役目でありたい。 晴くんを守っていこうと思っていても今の俺には力も経験も足りない。 視界がぼやけぬよう奥歯を噛み締めた。 「うん、ごめんね」 晴くんに後ろから抱きしめられて、背中が暖かくなる。 「凪はいつも僕を守ってくれてるのに」 …違う。 俺は嫉妬してるんだ。 他の人を見て欲しくない。 「俺だけを、見て」 声を絞って、ギリギリ吐き出した本音。 「うん、分かってる」 …分かってなかったのは、俺の方。

ともだちにシェアしよう!