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第176話
「君の恋人に敬意を表して意地の悪い事は言わないようにするよ」
いつもと違いラフな姿だが、コーヒーカップを持っていても絵になる嫌味な男。
何かを見透かしたような源さんの言葉は俺をイラつかせるが、もうブレない。
「信じてますから」
源さんは余裕ぶって答える俺を少しビックリしたような目で見た。
「あ〜あ、娘を嫁に出す気持ち、分かる気がする」
「何だそれ?晴海はあんたの娘じゃないだろ」
組んだ指の上に顎を乗せ、ため息を吐く源さん。
「人生の先輩に向かってあんた呼ばわりかよ…」
不服そうだが声は明るい。
「もちろん幸せが過ぎるほど大切にしてくれるんだろ?」
「当然」
ドヤァ…と胸を張る。
「そういや、今日はスーツじゃないんだな」
「僕だってデート位はするんだよ」
爽やかに微笑んでいるが俺は騙されないぞ。
俺と源さんの視線が絡んで人知れず火花が散っている。
そこに晴海が息を弾ませてやって来た。
「凪…と、源さん…。二人とも…仲良し?」
「うん、仲良しだね!」
「違う!」
源さんに思い切り手を握られ、俺は力の限り抵抗して振りほどいた。
「晴海!早く行こう!」
晴海の腕を取り、俺は足早にその場をはなれた。
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