日が沈みかける頃、宴に出席するためシェリダンは着替えていた。美しい海を思わせる澄んだ青の衣装はシェリダンの輝く銀髪によく似合う。シンプルに見える衣装であるが、よくよく見れば全体にほんの少し薄い色糸で細かな刺繍が施されている。ダイヤの散りばめられた細めのベルトはシェリダンの華奢さを匂わせた。夏ゆえに涼しさを重視して作られた薄物の衣装は透けることはないが、歩くたび、手を動かすたびにひらりひらりと緩やかに揺れ動く。ゆるくまとめられ、サファイヤで飾られた髪や耳元、揺れ動く薄物の衣装に白磁の肌、けぶるような菫の瞳。すべてが涼し気で、清らかさを放っていた。 　気は進まないが、出席しないわけにはいかない。シェリダンは差し出されたアルフレッドの手を取って立ち上がる。腰に回された逞しい腕に肩の力を抜いて、宴の席へ向かった。彼らの後ろには当然数名の女官と侍従が付き従っている。国王夫妻に気付いた近衛兵が両扉を恭しく押し開き、二人の到着を声高に伝えた。 　アルフレッドはシェリダンを促して王夫婦のために用意された椅子に並んで腰かける。時を同じくしてラウン公子とルーフェリア公女が入室する。彼らがアルフレッドとシェリダンに礼をして、宴は始まった。 　管弦の音色が美しく響き渡る。各々が談笑する中、シェリダンとアルフレッドはぴったりと寄り添って座っていた。宴の主役であるラウン公子とルーフェリア公女はオルシアの高官たちに挨拶をしている。お国柄なのだろうか、常に二人の周りには七人の女官と同じく七人の侍従が付き添い、あわせると十四人にもなるため人垣のようになっている。飲みかけのグラスを持っているのも女官であるし、手が汚れても女官に拭かせている。 「……アル」 　シェリダンは周りに聞こえないよう小声で隣に座っているアルフレッドを呼ぶ。 「どうした？」 　シェリダンに視線を向けたアルフレッドは、疲れたのか？　と労わるようにシェリダンの髪をひと撫でする。 「いえ、少しお聞きしたいことが」 　無言で促してくるアルフレッドにシェリダンはさらに声を潜めた。