3 / 5

特等

「さすがに家人の死体はもうない、か」 「まあ腐るだろうしな」 東京からさらに東。 久方三作の痕跡がなくなった豪族の屋敷。 そこには数名の調査隊と祓イ士が屋敷の中にいた。 「祓イ士がいるってことはよっぽど強い瘴気が漂ってたんだな・・・」 「まあ文字通り祓ってんだろな」 ここでエクソシストの三つの役職を補足すると 一つは【悪魔狩り】。 武器を使い悪魔を狩るもの。 二つ目は【祓イ士】。 悪魔が発する瘴気を祓う者、もしくは人間から悪魔を剥がす者。 三つ目は【退魔士】。 悪魔狩りとは違い呪術で悪魔を退治する者。 大体のエクソシストは悪魔狩りと祓イ士の資格を持っている者が多いが退魔士は一つの資格だけで二つの資格をカバーすることができる優秀職といわれている。 久方兄弟も武器特化ではあるが祓イ士の資格も有している。 「だが一ヶ月も経ってまだ祓えていないってのは相当上位の悪魔がいたみたいだな」 「あぁ」 「おや?悪魔狩りの方ですか?」 並んで庭を眺めていた久方兄弟に話しかけてきたのは退魔士のゆったりとした服を着た男か女か判別がつきづらい・・・声でおそらく男だろうと思われるが銀色の髪の長い髪と瞳が美しい人物である。 「だれだよ」 「弐湖。・・・弟が失礼しました。日本支部一等エクソシスト、久方一です」 「・・・一等の久方弐湖だ」 「いえ、いきなり話しかけた私も悪いのです。私は本部の者ですが役職は神父兼特等エクソシスト、エルです。よろしくお願いします」 「特等かよ・・・」 「弐湖、言葉遣い。・・・なぜ本部の特等がこちらへ?」 一がエルに話しかけると、エルは少しばかり悩む仕草を見せ、「あなた方の名前・・・ここで行方不明になった久方三作の縁者で?」と尋ねてくる 「ええ、末の弟です」 「・・・別のところで話しましょう。仮説の応接間があります、そちらへ」 「聞かれたくない話、か」 木材で作られた仮説の応接間に案内された二人は座るように促され、エルの前のソファーに腰掛ける。 「情報源はお教えできませんが、こちらに上位の悪魔・・・それと」 ―――サタンの関与を確認しました。 「!?」 「サタンって・・・伝説の悪魔の?はっ、冗談も時と場合を考えろよ」 「それが冗談ではないのです。冗談ならば良かったと思うのですが・・・」 弐湖は驚いた様子だったが鼻で笑い飛ばしエルを挑発する。 しかしエルは眉を寄せ、深刻そうな顔で話しを続ける。 「情報源はお教えできないとおっしゃいましたが、確かな情報なのですか?」 「ええ」 「じゃあ三作は何処行っちまったんだ。まさか・・・」 「お察しの通り我々の言葉で言うならば【ヘル】・・・魔界、地獄とも呼ばれますが、そちらに連れ去られたものだと思われます」 「待ってください、一等とはいえ一介のエクソシストを連れ去って何の得があるというのです」 一が異議を申し出る。しかしエルは首を振って「申し訳ありませんがそれ以上はお話しすることができません」と言う。 「あぁ?なんでだよ」 「特等機密・・・か」 「あ?なんだそれ?」 「特等のみが共有できる機密だ。たとえ一等といえど知ることはできない」 「ええそうです。・・・助言とは違うのですが ――――この件からは手を引いた方がよろしいでしょう」 沈黙が落ちる。 弐湖はエルをにらみつけ、一は考え込むようにうつむく。 「・・・わかりました」 「おい、兄貴」 「黙れ弐湖。これは組織の決定だ。我々が逆らえるわけがない」 「・・・・っ」 「・・・三作さんは、できる限りの手段を尽くします」 エルはそう言い立ち上がると応接間を出て行く。 弐湖は悔しそうに唇を噛み、一は懐からある者を取り出す。 「・・・?兄貴?」 「一等が・・・一等でも関われないのなら。やることは決まっている」 「へ?あぁ・・・・ってまじかよっ!?」 「我々も特等になるぞ」 黒くよどんだ泥が三作にまとわりつく。 これは夢、サタンの穢れを受けてサタンが見せる夢。 ―――苦しい ―――苦しい もがきながら泥から脱出しようとするがうまくいかない。 体に泥がまとわりつく・・・ 口に泥が入り込み息がさらに苦しくなる 体が熱くなり発情するのがわかる。 だれか 太くて大きいもので俺を貫いてくれ そう言いたくなる声を必死に飲み込む。 サタンの嗤い声が聞こえてさらに体が熱くなる。 ―――いやだ ―――まだ、俺は【人】でいたい サタンの血が俺を侵食する、穢し堕とし自我を殺しにくる。 泥が三作を覆い尽くす。 必死に手を伸ばす。 ―――助けて 喉が痛くなるほど叫ぶ。 誰にも聞こえることなどないのに・・・ ―――いいだろう。 サタンの声がした いや違うサタンと同じ声だが【声が優しい】 聞いたこともないサタンの声。 泥からわずかに飛び出た手を誰か温かい手が握る。 泥から引っ張られその人物を見る。 ―――天使様? 「ちっ、もう少しで堕ちるというところで・・・」 サタンは苦々しくつぶやいた。 三作を穢す最後の仕上げとして夢を使ったがうまくはいかなかった。 【あちら側】の誰かが邪魔をしてきたのだ。 だがしかし・・・ 「あちら側に我の夢に介入できる奴なんていたか?」 その疑問が残る。 ―――だがまあ夢が使えないのなら時間はかかるが快楽にて堕とすのみ サタンはほくそ笑み、眠る三作の体を抱き起こしその孔へ自らの剛直を沈めるのだった・・・

ともだちにシェアしよう!