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第2話 行かなきゃいけない場所があるんだ

「い、いきなり何するのさ!」流石の明日駆も慌て切って顔を真っ赤にした。 「お近づきの印。」「やりすぎ!」対してけろっとした顔の真秀。真秀的にはキスはお近づきの印に過ぎないようだ。真秀は手早くまたマスクで顔を覆った。 「あとその桐谷くんって呼ぶのやめて。俺らのこと下の名前で呼び捨てにしてよ。」自由奔放な真秀に明日駆はついていけないと心の底から思った。 「わ、分かったから…真秀、海、蒼、よろしくね。」「よろー」 そのまま結局何も歌わずに帰ってしまった。しかも男子にファーストキスを奪われた。明日駆は疲弊しきってベッドに寝転がる。1日を頭から振り返ってみる。真秀は明日駆の記憶の中で朝一番に出会った友達。友達と呼んでいいのか分からないが。散々振り回されたが、なんだか悪い気はしないような…?いやいや、そんなわけ。とむしゃくしゃしながらベッドを立ち上がり、制服を脱いだ。 同時刻、家に帰った真秀の携帯に一本の着信が入る。そのメッセージに真秀は目を瞑った。 翌日の放課後、明日駆たち四人は早速音楽室を借りて練習を始めることになった。しかし一向に真秀がやってこない。しびれを切らし、「真秀まだ?」「三十分も経ってます…遅い…」と明日駆も蒼も漏らす。 「あいついつも遅れてくるんだよね〜。俺とは小学生の頃からの付き合いなんだけど。許してやって〜。」海が二人をなだめる。と、その時、音楽室の扉が開いた。真秀だ。明日駆が声をかけようとした。 「ましゅ…」「俺、急用ができちまった。今日は三人でやっててくれ。そんじゃ。」そのまま足早に去っていった。 「いってらっしゃい…」「全く…」三人はそんな真秀の背中を見届けた。 三人とも悪りぃな。どうしても、行かなきゃいけない場所があるんだ。と覚悟を決めたような顔のまま、真秀は学校を出た。 学校を出た真秀が、民家のインターホンを押す。するとすぐ中の住人が出てくる。 「凛…」真秀が凛、と呼びかけた相手は少し小柄だが、真秀と同じ高校二年生の男子。一見愛くるしい顔立ちだが、その笑顔は何かどす黒いものを感じさせる。中村凛。高校二年生。黒い学ランを身につけた他校生。真秀との関係性は、いずれ分かる。 「来てくれたんだ、真秀。さ、上がって。」 凛の家に上がった真秀。凛に言われたわけではないが、制服のジャケットを脱ぐ。そのままシャツも、ベルトも外す。 「それで、今日は何するんだ。」ほぼ服を脱ぎ捨て、いつものマスクも外した真秀が強張った面持ちで問いかける。 「何って、決まってるじゃない。」凛は狂気に満ちた瞳で舌なめずりする。 「アノ男に会ったんでしょう?お仕置きだよ♪」そのまま、真秀を床に押し倒した。 その頃、練習を終えた三人はファストフード店で小腹を満たしていた。 「桐谷先輩には困ったものです。」食べながら蒼が呆れながら言う。 「そういえば、真秀ってあーやってすぐキスとかするの?」明日駆が海に疑問を投げかける。 「遊びでキスとかあるよ〜。あいつめちゃくちゃ軽いもん。俺も中学の頃二人きりの時にキスされたなぁ。」「よく平然と語れるなぁ…」懐かしむ顔をする海に明日駆は苦笑いで返す。 「そういえば、明日駆くんって真秀に恋愛感情抱いてたりするの?」先ほどの話でテンションが上がったのか、海はこんな爆弾発言を言ってのけた。 「んなっ…わけないだろ!!」明日駆は謎に照れながら全力で否定する。明日駆は流されやすいところがあるから、キスなんてされたら少しは気になってしまう。それでも男同士だし、はた迷惑なところがある真秀との関係はあり得ないと再度確認する。 「ま、それはいいんだけどさ。」ジュースを口に含み、海はまた昔を懐かしむ顔をした。 「今のアイツは恋なんてしない。」「恋しない…?」明日駆は疑問に思い話に聞き入る。 「詳しいことは言えないけど、マスクをしているのもそのせいなんだ。」「へぇ…」明日駆の中でモヤモヤした疑問が増えた。その話、真秀から聞けたら聞きたいな、なんて思った。 その晩は、明日駆の頭の中を真秀が占めていた。他人事ではありながらも、恋しない理由が気になって引っかかって。それでも眠気に襲われ、部屋の電気を消した。 「すき、すきだから、許して」あれから、凛は真秀を強引に抱いた。許しを請いながらも抵抗する真秀を見て、 「ねぇ、いつも思うんだけどさ」凛の背中には真秀が爪を立てた痕。それでも凛は力を緩めずこう言った。 「毎回泣くのやめてくれないかな。」「り、凛っ、これ以上は!」真秀の苦しい喘ぎ声はだんだんと掠れていった。 翌日の放課後。 「よし、レッスンするぞ。」 今日は真秀もいる様子だ。その代わり、海と蒼のオカ研コンビの姿が見当たらなかった。 「それはいいんだけど、オカ研の二人は?」「部活忙しくて来れないってさ。」真秀はそう答えた。二人きりのチャンス。ここで言うしかない、と明日駆は胸の中のモヤモヤした疑問を吐き出した。 「…真秀ってさ、恋したことある?」唐突な質問だが、真秀は顔色を変えずに答えた。 「恋か、一回だけ本気でしたよ。」真秀は昔を思い出す。そして、マスク越しでも分かるいつにもなく儚げで、触ったら壊れてしまいそうな繊細な表情をして続けた。 「でもその恋はこんがらがって解けちゃった。もう恋をするのが怖いんだよ。」その顔、その声音、その全てを明日駆は受け入れようとしたが、なんだかぼーっとしてしまった。優しく語る真秀の全てが綺麗すぎて、触れてはいけないような気がして、でも、心の奥底が真秀に触れたがっていた。もしかしなくても、これは恋だ。

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