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第3話 愛されたいなぁ
真秀の顔に見とれてしばらくぼーっとしたが、明日駆は平静を装い、
「練習しよう!」と切り返そうとした。真秀は内心分かりやすい奴、と心を読んでいた。
「それだけど、俺歌うの下手なんだよ。」「え?」ボーカル担当だが、真秀は自身の歌が下手、と語った。
「歌下手卒業したくてボーカルになったの。聞かせてやろう。」「う、うん。」大したことないだろうと思っていた明日駆。その時聴いた真秀の歌声は、案外大したことあった。
一歩その頃、部活を終えた海と蒼は一緒に公園に寄り道していた。
炭酸飲料の蓋を開け、ゴクゴクと飲む蒼。もう炭酸だとか、シャーベットアイスが恋しい季節が近づいていた。
「そろそろ衣替えかな?」海もジャケットを脱ぎながら言った。ベンチにしばらく座っていると、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
「救急車ですかね…って海さん?」隣にいたはずの海に声をかけようとした時、海はなぜか蒼の後ろで「来る」と連呼していた。
「たまに救急車に乗って霊がつくんだよ〜!蒼くん守って〜!」「何言ってるんですかこのオカルトマニアが。もう行っちゃいましたよ。」海曰く、救急車が来ると自身に霊がつくらしい。
「しばらく学校行けないかもしれない…」「何言ってるんですかこれごときで…」やっと立ち上がった海は顔面蒼白で答えた。
「今、つかれたよぉ。完っ全に。霊にー!つかれたー!!しばらく学校行けないかもしれない!!」涙を浮かべ震え交じりに。蒼にはどこかおかしい人にしか見えなかった。
「というわけで、そんな訳の分からん理由で海さんはしばらくお休みです。僕が恥ずかしい。」明日駆と真秀にそう報告した。
「アイツ、昔からそういう理由で休むことあったぞ。」疑問そうな顔の明日駆を見て、真秀がそう付け加える。
「そういえば、蒼ってそもそもどうしてオカ研に入ったの?そういうの信じなさそうだけど…」誰もが思う疑問だろう。蒼はオカルトとはかけ離れた印象だ。
「オカルトを科学で証明すべく入ったんです!いわば挑戦状です!」拳をぎゅっと握っていつにもなく熱く蒼は答えた。「が、頑張ってね。」
「そんで、部員はお前と海の二人なわけだけどさぁ、海のこと好きになったりしないの?」真秀の茶化すような質問に、「はぁ?あの人はあくまでライバル、そして先輩。どこにも好意を抱くポイントはありません。」と言い切った。
「俺だったら二人の恋、応援するけどな。」「冗談でしょ。」「うん。」どこまでも茶化す真秀。
「第一お前、恋とかしなさそうだし。」と返すと、蒼は言葉を詰まらせながら、「そう…ですね。」と答えた。いや、そんなことない…そんなこと…と蒼の脳裏に「あの人」の姿が浮かんだ。
自室にこもっていた海は、大きなクッションに体を預けてふと天井を見上げた。
「愛されたいなぁ。」と誰宛でもなく一言呟いた。
数日後の放課後、海が音楽室の扉を勢いよく開けた。
「というわけで、海ちゃんふっかーつ!!」「さーさっさと練習しますよ。」「いや冷たいな!?ショック!!」完全にスルーする蒼に海はショックを受けました、という顔をする。
「とにかく!優勝するためには練習あるのみです!」「なーんか蒼、いつにも増してイライラしてない?」海の言う通り、蒼は苛立ちを隠せていない。
「それ以上言ったら本当に怒りますよ。」
…ま、俺には蒼の考えることなんて透けて見えるんだけどね…と笑顔の裏、内心蒼の心の内を海は読み取っていたが。
その日の練習も終えて、海は蒼に「話がある」と部室に呼び出した。
「で、話ってなんです?」「えっと〜突然なんだけど…」この後海が発した言葉に、蒼は思考がフリーズした。それもそうだ。あんな言葉を唐突に放たれたら。
「俺たち、恋人同士にならない?」「…?…は?」
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