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第6話 交際を申し込みます

Wデートも終え、練習の時間となった。真秀がいつも通り遅れてやってきた。 「よぉ、来たぜ」「あ、真秀…ん?」真秀の顔を見て、明日駆は一見見間違いか?と目をこする。 「俺の顔に何かついてるか?」「桐谷先輩、いつものマスクは?」蒼も疑問そうに問いかけた。いつものトレードマークのマスクがない、素顔の真秀がそこにいた。 「あーこれか、それはな…俺のこともっと見てもらいたいって思ったから。」いつにもなくすっきりした表情で真秀は答えた。 「見てもらいたいって誰に?」「内緒!」海の問いかけには答えなかった。アイツも気が変わったか、と腐れ縁の友人のあの頃とは違う心持ちを遠目で見ていた。そして横に目をやる。海の視界には蒼が映っていた。こっちはどうなるんだろうなぁ。とその様子を伺っていた。 「蒼〜一緒に帰ろー」「今日は一人で帰ります。」海の誘いを断り、蒼は一人で帰路に着いた。帰り道、ずっと海のことを考えていた。蒼が出した結論は、悔しいけどあの人が好き、というものだった。気持ちに整理がついたら、来週くらいには返事をしよう。と考えていた。あの日、海が見せてくれた沢山の表情が蒼の頭の中を占めていた。もうそれ以外考えられないほどに。もっと冷静になって、カッコいい返事をして、あわよくばお付き合いしたい。と考えていた。 そして翌週の放課後。蒼は海を誘った。 「返事、決まった?」「決まりました。僕の答えお聞かせします。」二人はそのまま人気のない公園に向かった。 「さてと、俺のこと好きなの?嫌いなの?」「いきなり聞きます!?」ムードも何もなしに海はいきなり結論を聞こうとする。 「ムードってもんがあるでしょうに…」「俺は早く答えを聞きたーい。」カラスが妙にうるさい夕方。今日の夕日は一段と眩しかった。ため息ひとつついて、蒼は話を始めた。 「…結論から言うと、僕はあなたを好いています。」冷静に、冷静に、と次の言葉を考えていたが、とめどなく言葉が溢れ出す。 「あの時見せてくれた色々な表情が愛おしくて。ずっと見ていたいんです。」カッコ悪い顔をしている自覚はあった。いつもの冷静な顔からは想像つかないくらい、恋に振り回されている自分が情けないようで、でも、思いも伝えられて満足感もあって。何が何だか分からないままだ。 「で、海さんは?」しかしそれもつかの間、すぐに冷静さを取り戻し、海に問いかけた。 「いきなり聞きます!?」「いきなり聞いてきたのはアンタでしょ!」海は話を始めようとしたが、言葉がなぜか出てこない。 「海さん?」「その、ちょっと待って…」顔を下に向け、表情を見られないようにした。 「まさか僕だけに言わせるつもりじゃありませんよね?」蒼が怪訝そうに問いかけると、やっと顔を上げた。 「そうじゃなくて、その…」そして蒼の方にゆっくり顔を向ける。 「慎重に言葉を選んでるだけなんだ…」先ほどの蒼のように余裕が無いような、赤い顔をしていた。蒼は、なんだ今の顔…可愛いな…と内心思ってしまった。海がやっと話を始めた。 「俺は最初、利害が一致するから付き合いたいって思ったの。でもこの間俺のためにあんなに尽くしてくれる蒼を見て…嬉しかったの。だから…」海は改めて蒼の方に体ごと向けてついに泣き出しながら次の言葉を放った。 「両思いになれてよかった!!」「両思いって、海さんまさか…」大粒の涙を流し嗚咽交じりに声を大にした。 「蒼を好きになれてよかった!好意が人に届いて嬉しい!」「海さん、なんで泣いてるんですか。」「嬉しいから…」そんな海の嬉し泣きを見つめた蒼は、あの日の自分が一切考えていなかった言葉を海に伝えた。 「…海さんのその顔も好きですよ。もっと見ていたいから、交際を申し込みます。」昔あの子にも見せなかった、恋が成就した甘い表情。海も精一杯の笑顔を見せて、「喜んで」と返事をした。お互い無言のまま、引き合うようにキスを交わす。 「今日は手繋いで帰らない?」海のそんな提案に、「いいですね。」といつになく優しい声音で蒼は返し、差し出された手を握り返した。

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