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第7話 幼馴染だから
世の中の学生は絶賛夏休み中。桐谷真秀、17歳。絶賛、恋煩い中である。
朝から窓越しにジリジリと太陽が照りつける。下着一枚で寝ていた真秀はそのまま一階に降りた。
「はよー。」「はよー。」「ゲッ!真秀お前パンイチで来んなよ!」真秀の声に二人の返事が返ってきた。真秀の兄、大学一年生の桐谷春矢と、その恋人の岬輝。同じく大学一年生。
「今日は二人とも家にいんの?」真秀の問いかけに、春矢は照を抱き寄せ唇を尖らせながら
「輝とラブラブ家デートだから邪魔すんなよ〜」と答えた。「暑苦しいから邪魔してくれ。」明らかに嬉しそうな顔で輝は春矢を押しのけようとする。
「うん。邪魔するつもりなんだ。」真秀のいつになく真剣な声音に春矢は輝を離してじっとその目を見つめる。
「…何か相談でもあんの?」「おう、重大な相談だ。」
「へー、真秀が恋のプロの俺たちに恋バナね〜。」真秀が相談したのは明日駆のこと。輝はこっぱずかしい、と俯いた。
「で、どういう悩みが?」弟の恋バナに興味津々な様子の春矢は嬉々として問いかける。
「好きなヤツがいるんだけど、俺が別のヤツに束縛されてて動けない、みたいな。」その答えに春矢はうーん、と顎に手を当て考える。そしてすぐに何かに気づいたようだ。
「それってもしや凛くん?」「何で分かった!!」真秀、凛、春矢、輝は幼馴染。長い付き合いだからこそ、春矢には分かったのだ。
「あー、あいつらしいや。中学の頃から真秀に対する目つきだけ違ってたぞ。」輝も勘づいていたようだ。
「そう…だったのか。」「真秀は凛くんのこと嫌いなの?」春矢が問いかける。真秀は昔のことを少しずつ思い出していった。そして苦しい心の内を少しずつ春矢たちに見せた。
「いや、実は好きだったんだ。でも一時期避けられて、嫌われたと思ったら好きって言われて、気持ちがわけわかんなくなって…好きかどうか分からなくなった。」真秀は、出会った頃の凛を思い浮かべた。今のような狂気に満ちた瞳ではなく、もっと純粋な子供。あの頃を懐かしむ。
「そっか。じゃあまず凛くんとの決着をつけないとね。」「そう…だよな。」いつになく優しい春矢の声音に、真秀はなんだかそのまま身を預けたくなってしまった。
「で、今好きなヤツはどういうところが好きなんだ?」輝が問いかける。
「バカ真面目で一生懸命で不器用で…ちゃらんぽらんな俺に対して真っ直ぐ想いを伝えてくれるところが好きなんだ。」
「…へー、いい恋してんじゃん。」あの真秀が恋。あんなに小さかった頃は想像もつかなかった幼馴染の成長に輝は親心のような、嬉しい気持ちになった。
「ちなみにその子の名前なんていうの?」「日比谷明日駆。こいつ。」携帯画面を二人に見せる。
「わー♡かわいい♡付き合いたーい♡」冗談でそう言う春矢に「付き…!?」とショックを隠せない輝。
「もー冗談なのに輝はかわいいな〜」「おまっ、キスしてくんな!!」真秀をよそにイチャイチャを始めた。
「明日駆くんとの恋、叶えるんだよ。」「分かってるよ…」
話を終えてしばらくした頃、真秀の携帯に一本の着信が入る。凛からだ。真秀は恐る恐るメールを開く。真秀はその内容に驚愕し、放心状態になった。
決着がつくのは、きっともうすぐだ。
そんな夏休みも終わりを迎えた。夏休み明け初日、明日駆のクラスに転校生がやってきた。
「中村凛です。よろしくお願いします。」中村凛、と名乗った。明日駆は学級委員長として凛に接してあげよう、と思っていた反面、転校初日の挨拶の時点で違和感を感じていた。なぜかとても目が合う。離しても、追いかけられているような、そんな気がした。しかも、席が隣だ。席にやってきた凛に声をかける。
「よろしく凛くん。」「よろしくね、日比谷明日駆くん♪」凛は日比谷明日駆、とフルネームで明日駆を呼んだ。明日駆には名前を伝えた記憶が無くて、「な、なんで僕の名前…?」と疑問を投げかけた。
「あー…僕…真秀の幼馴染だから。」凛は笑顔を貼り付けてそう答えた。明日駆も納得した様子だ。
「あっ、そうなんだ、幼馴染!よろしくね!」いきなり目があったのはびっくりしたが、悪い子ではない。と確信した。
その日の放課後、音楽室にはいつもの四人、と凛の姿。明日駆はこれまた疑問そうに
「あの、凛くん質問…」と問いかけた。
「なぁに?日比谷明日駆くん。」「今、バンドの練習なんだけどなんでここに?」
「僕が作曲担当としてメンバー入りしたからだよ!」そう語る凛は手に楽譜を持っていた。明日駆も関心した様子だ。
「俺の幼馴染だ。仲良くしてやってくれ。」真秀も凛を歓迎していた。しかし、笑顔で語る凛の心の内はどす黒い嫉妬で煮えたぎっていた。まずは邪魔者をどかすところから。と不敵な笑みを浮かべた。
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