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7月7日(日)09:17 最高気温30.7℃、最低気温21.9℃ 晴れ

 7月7日(日)09:17 最高気温30.7℃、最低気温21.9℃ 晴れ  静かな朝だった。  静かすぎる。  ガバッと飛び起き、ああ……そうか、昨晩から樹はゴルフ場に行ってしまったのだと思い出した。  出張とかでたった二、三日いないだけで、気配はあっという間に薄れてしまう。洗濯カゴの中にはもう樹の服はない。洗い物は半分で済んだけど、何故かちっとも楽になったと思えなかった。  このままいなくなってしまったりして……  まさか、そんなことは……でも……  前に同棲していた恋人に、突然逃げられたときのことがダブった。何の前触れもなくそいつはいなくなって、もしかしたら事件に巻き込まれたんじゃないかとか神隠しにあったんじゃないかとか悪い妄想はどんどん膨らんで、何が起きたか分からない、どうしたらいいのか分からないこの不安感に比べたらまだ、死体と直面させられていた方がマシだとすら思ったくらいだ。だから財布の中身が抜き取られていたのに気づいたとき、怒りよりも先に、ほっとしたのだ。ワケの分からないことが、ちゃんと説明つくこと、になって、ほっとした。そのときのことを唐突に思い出した。  馬鹿がつくほど真面目で、嫌味ったらしいくらい筋を通す樹は、きっとそんな遺恨を残すような別れ方はしない。もし別れるとするならば、きっと何もかもきれいに等分に清算して、誓約書くらい書かされそうな気がする。でも湧き上がってくる不安感は、理屈じゃなかった。  丁度つけたテレビで天気予報をやっていた。 『今日の天気は晴れ。梅雨の時期ということもあり例年、雨や曇りが多い七夕ですが、今年は無事、織姫と彦星は出会うことができそうですね』  そういえば一年に一度だけ出会えるというロマンチックなエピソードの印象が強いけれど、そもそも何故、織姫と彦星は天の川の端と端に引き離されてしまったのだっけ……  気になって調べてみて、分かった。ラブラブすぎるあまり、ふたりとも仕事をしなくなって、天の怒りをかったからだ。それを知ってしまうとロマンチックも半減というか、そういう点では少なくとも自分たちは引き離される心配はないだろう。悲しいくらい。  ひとりで家にいるとロクなことを考えない。  本当は樹と行くはずだった展覧会に行ってやることにした。

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