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7月8日(月)08:08 最高気温32.2℃、最低気温24.5℃ 晴れ

 7月8日(月)08:08 最高気温32.2℃、最低気温24.5℃ 晴れ  目覚めたとき、背後から抱きしめるような形で樹の腕が自分の腹の上にあったから、てっきり昨日やったもんだと錯覚してしまったけど、いやいや、違った、やってなかった。  しかし樹がこっち側向いてる……って、めずらしいこともあるもんだ。日向が樹に背を向けているというのもめずらしいけれど。腹の上ですっかり力の抜けきった樹の腕を持ち上げては離し、持ち上げては離し……ということを、何度か繰り返した。バタン、バタン、と、結構高いところから落としても起きないのが面白くて、これでどうだ、と思いきり高く腕を持ち上げたとき、あっ、と気づいた。 「樹っ!」 「ん……?」  手は落ちる寸前で、ぴたりと止まった。 「八時! 八時過ぎてる! 遅刻する……ってか遅刻じゃん!」 「あー……」  樹は目覚ましに極限まで顔を近づけると(ど近眼なのでコンタクトがないと何も見えない)、「今日休み」と、枕に顔をうずめた。 「へっ……休み……あ、そう……」 「どうせコンペでくたくたになるだろうって思ったから、有給ねじこんどいて正解だった」 「あ……そ……そう。うまいこと考えたね」  そうか……どおりで……  疲れてるだろうに美術館まで足を運ぶことができたのは……日曜の夜遅くなのに外で飲んでいても平然としていたのは……そういうわけか。スケジュール管理徹底してる……っていうか、ちゃっかりしてるよなあ……てか、それならそうと言っておいてほしかった。そうしたら昨晩、もっと遠慮なくいろいろできたのに。……その前に自分の体力が尽きていたか。  あ、そうだ、と思いつき、樹の方に向き直って抱きしめ返す。一度は閉じかけた樹の目が、また半びらきになる。朝の光に、樹の長い睫毛が透けている。今、たぶん、樹が最も美しく見える角度で、自分は樹のことを見ている。  したい、というより、吸い寄せられた、といった方が正しかった。でもあまりマジな雰囲気になるのも嫌で、軽い挨拶的にちゅっとやろうとしたら、 「ぶっ!」  いきなり口を塞がれた。 「な……にっすんだよ!」 「それはこっちの台詞だ。知ってっか。起きたばっかの口って便所よりきたないんだぞ」 「いーじゃんそんな細かいこと。もっときたないとこくっつけあってんのに」 「嫌だ。病原体を移されでもしたら困る」 「そんなの言ってたら世の恋愛映画とかドラマとかほとんど成り立たなくない? つーかさあ、好きな奴だったらむしろ、移してー、とか言うもんじゃないの。ほらあ、風邪引いたときとかー」 「あれ絶対嘘。そもそも風邪引いてるときとか絶対そんな気にならない。それより水くれって感じ」  流されてくれるかと思ったけれど、意外に樹は頑なだった。  身体の左半分だけが樹の上に乗っかっている。さらに乗っかろうとしては押し戻され、乗っかろうとしては押し戻されの攻防戦。なかなか陣地を広げることができない。何だよさっきまで抱きついてきていたのはそっちの方だったくせに。作戦を変えて、今もうふれている部分の密着度をさらに高めることにする。樹の太ももの柔らかい部分に、硬くなり始めてしまったものを押しつける。朝っぱらから何やってるんだろうと思うけど、朝っぱらだからこそ許されるような気もして、徐々に徐々に、踏み込んでいく。膝頭が、樹のちんこに当たった。互いに互いの状態を、同じタイミングで知った、と思う。たぶん。  緩いスウェットだから、簡単にずり下げてやることができる。 「……口にさせてくれないなら、こっちにする」 「やめろっ!」  マジな力で頭をつかまれた。それでも頑張って抵抗を試みていると、口の中に親指が入り込んできた。危うく噛んでしまいそうになって口をあけた隙に、さらにもう一本、今度は人差し指が。 「ん……んんっ……」  ついうっかり入ってしまった、わけじゃなさそうだった。あきらかに意図を持った動き。 「指はいいのかよ」 「妥協点」  なら徹底的にしゃぶりつくしてやろうと思ったのに、歯列や頬の裏側、上顎を不規則な動きで撫でられ、その動きを追うだけで精一杯だった。 「ふあっ……ふっ……う……っ」  親指と人差し指で舌を摘ままれ、軽く引っ張られる。くい、と力を入れられるたびに、勝手に声が漏れてしまう。ちんこを擦られたり、ナカを抉られたりするときに漏れてしまうのとはまた、違う。声を出して快感を煽ったりするけれど、今はただ、恥ずかしさしかない。ケツの穴を初めてさらしたときよりもしかしたら恥ずかしいかもしれない。知らなかった。カマトトぶってるわけでも、樹を持ち上げてるわけでもなく、そう思う。恥ずかしすぎる。  舌の上で円を描くように親指を動かされると、尾てい骨から首筋に向かって、ぞくぞくしたものが突き抜けた。 「はっ……や、らっ……」  これ以上は駄目だと顔を背けたけれど、指はしつこく追いかけてくる。命令されたわけでもないのに、口を閉じることができなかった。もう少しで唾液が零れてしまうぎりぎりのところで、人差し指と中指が同時に突き入れられる。じゅる、と唾液を飲み込みながら咥え込む。 「んっ……ん、んん……っ」  さっきまではしかたなく、だったのに、もう、口を離すのが惜しくなっている。ずっとしゃぶっていたい。しゃぶっている自分を見てほしい。唾液は零れなかったけれど、また別の液体がじわりと滲み始めているのが分かった。樹の足が動いて、つま先が股間をつついた。耐えきれず「あっ」と声を上げた瞬間、とうとう口の端から唾液が溢れた。その最悪な瞬間に、目が合った。 「指舐めてるだけで感じてんの」 「そっちこそ……指舐められただけで感じてんの」  それをきっかけに、樹の上の馬乗りになる。尻に樹のちんこがふれただけで、性感帯をなぞられたみたいにぞくぞくした。  笑いたいなら笑えばいいと思う。  そうだよ。  舐めてるだけで感じるし、ふれられただけで感じるし、見られただけで感じるし、声を聞いただけで感じるし、心の中で樹のことを思っただけでも感じるんだよ、こっちは。  ゴム……と、樹が言うより先に、サイドテーブルから引っ張り出した。もう一個、と言うから何かと思ったら、ビニールから出したそれを日向のちんこにかぶせてきた。 「シーツ、夏用のやつに替えたばっかりだから」 「こういうとき攻め様は、俺の手の中に出せよ、とか、言ってくれるもんじゃねーの」 「時と場合による」  隙あり、と、キスしてやろうと思ったけれど、あと一歩のところで阻まれた。 「ケチー。もういいじゃんここまで来ちゃったんだから」 「今日は、絶対、キスは、しない」 「キスはしない……とか、それって浮気相手とのセックスみたい」 「したかったんだろ、そういうプレイ」  やり込めてやろうと思ったのに、逆にやり込め返されてしまった。  いいんだ別に。樹とやれるんだったら、どんなプレイだろうが体位だろうがいつどこでやろうが、満たされることには変わりないんだから。 「ふっ……う……」  樹のものを沈めきったとき、よくできました、と言わんばかりに唇をなぞられた。あえて口を半びらきにしていると、また樹の、長くて、骨張って、爪は深爪気味に切りそろえられていて、鞄を持ったりキーボードを叩いたりしている指が、今度は『ご褒美』として口の中に入ってくる。上も下も、ぎちぎちに樹で満たされている。とろけていく。  樹の声が聞きたかった。自分ばかりが情けない声を上げているのが悔しい、というのもあるけれど、樹が感じている声を聞くだけで、気持ちよさが倍増する。  ああ、自分の声、邪魔だな……  樹の第二関節から第三関節、手の甲から手首を、透明な液体が伝っていく。利き手じゃない方の手で、ゆるゆると前をしごかれる。本当はもっとなりふりかまわず腰を振りたいけれど、そうすることで与えられる快感をも振り切ってしまいそうな気がして、探るようにしか動けない。  不意に樹が片膝を立てて、ぐいっと突き上げてきた。  やだっ、樹、急に……  そう制したかったけれど、指を突っ込まれたままの口からは、ふあふあとマヌケな声しか出すことができない。  イく……ヤバい……もうイっちゃう……  人形みたいに揺さぶられるままになっていたから、そのときになってようやく、自分にも二本の腕があったのだということを思い出した。樹の脇腹、胸、肩……一体どこにふれたら自分の思いを一番伝えられるのか探りあぐね、最終的に頬を挟み込む形で落ち着いた。  イく、と言えない日向の代わりに、ほとんど初めの「イ」が消えかかった形で、樹が「イく」と囁いたのが分かった。  涙か、涎か、精液か……どれが最初に噴き出たのかよく分からなかった。とにかくありとあらゆるところがぐちゃぐちゃだった。濡れはしなかったけれどシーツはよれによれまくって、結局洗濯しなきゃならないような気がする。ベッドを軋ませるたびにバウンドしていた枕が、絶妙なタイミングで、ぼすん、と、ベッドの下に落ちた。

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