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第22話
抱き合ったまま静かに時が過ぎて行く。
抱き締められたまま、真琴はこのまま時が止まる事を願った。先程の話では自分も今回の事件について無関係とは行かないかもしれない。警察へ連行されなくても、事情徴収で束縛されるだろう。
この島から出て行かなくてはならない――そうなった時、章良も置いて去る事にもなるだろう。何もかも終わって、またこの島に帰って来るとしても、こんな自分に対して島民が快く受け入れてくれるとは限らず、真琴としても覚悟は出来ていた。
(……このままずっと一緒にいれたら……いいのに)
「離したくねぇ……このままひとつになれたら良いのにな」
抱く腕に力を込め、黒く艶やかな髪に顔を埋めながら章良が呟く言葉を聞きながら、真琴は胸の奥がツンと痛くなるのを感じた。
「……来て」
「マコちゃん?」
真琴が身体を離し、章良の手を取り神社の階段を上り始める。その横顔には何か決意の様なものが見えて章良は黙って手を引かれるまま、石で出来た鳥居を潜り、真琴の歩調に合わせ石段を登って行く。所々に短い命を終えた蝉が落ちており、アリが行列を作っているのが見える。
200段近い石段を登りきると、もうひとつ鳥居があり、その先は石畳では無く砂利で出来た参道が延びて、歴史を感じるがしっかりとした作りの社殿が建っていた。後ろを振り返ればそこには海が広がり、太陽が海面を眩しいほど照らしている。この位置からは本州と四国を結ぶ橋が良く見えた。
真琴は社殿の正面まで来ると、一度丁寧に礼をして、そのままぐるりと裏の方へと歩いて行く。章良も手を繋ぎながら真琴を真似て軽く礼をし、裏へと回って行った。社殿の敷地の片隅には、小さな家が建っており、真琴が入り口横にある青いビニール製の新聞受けの中から鍵を取りだし、玄関を開ける。
「ここ、何?」
「ここは、祭りに使う物を仕舞っていたり、それに関する行事の係が集まって打ち合わせする時に使う集会場みたいな所なんだ、普段ここは神主様は居ないんだけど、祭りの時だけ来て貰うんだ、その時の控え室にも使ったりしてる。今はまだ祭りの準備も始まってないから誰も来ないよ」
「へぇ」
中に入り鍵を掛けて、二人で廊下を歩いて行った。部屋が何処も開け放たれているのは、恐らく空気が籠もらない様にしているのだろう。突き当たりにはキッチンと呼ぶには広めの調理部屋がある。大きなコンロが何台もあるのを見ると、祭りで何か料理を振る舞うのかもしれない。
「マコちゃんは、ここ来る事あるの?」
「うん、秋に大きな祭りがあってそこで料理を出すんだ。まあ、海鮮汁と炊き込みご飯くらいだけどね、年末には餅付きもあるし年越しには雑煮や甘酒、ちょっとした正月料理も出すんだ。僕は島のお母さん達と一緒にお手伝いさせてもらってる」
「俺も食べたい」
「ふふ、きっと食べれるよ」
「マコちゃんのお節とか美味いだろうなぁ」
「…………」
正月、これから先もう自分はここには居ないかもしれない……そう思うと、真琴は章良の言葉に応える事が出来なかった。
巻き込みたくは無かったのに……しかし、この走り出した想いを止める事は出来そうにない。
「こっち」
台所の部屋でキョロキョロと周りを見ている章良へ声をかけ、真琴がキッチン横の廊下へと入り、トイレと風呂場を越えた所にある部屋へと入って行くと、章良も真琴の後を追う。
「……扉、閉めて」
「え? あ……うん」
その部屋の角には、何組もきちんと畳まれた布団が積んであった。
「この部屋は、泊まりで準備する時に交代で仮眠をする部屋なんだ」
真琴が振り返り、章良の首にスルリと細い腕を回し背伸びをする。少し驚いた顔をした章良の目を見て、そのまま唇を重ねて来た。
「……はっ……ん……」
いくら木の陰に隠れていたと言っても、何処から見られているか解らない道で、あれ以上くっついている訳にも行かなかったが、ここなら誰の視線も気にする事も無い。章良は、真琴の背中に腕を回し持ち上げる様に引き寄せ、顔の角度を変えて真琴の舌を夢中で追いかけた。
チュクチュク……お互いの唾液を交換する様に何度も舌を吸い、そして歯列をなぞり、上顎をくすぐる。その度に真琴の口から鼻にかかった甘い声が漏れ、章良の雄としての本能を刺激して行く。
「ぁ……ん……ッ……ハッ……」
夢中になり真琴を引き寄せていると、いつの間にか持ち上げられる形となり、真琴のつま先が浮いて、爪先がカシカシと音を立てて畳を掻いた。
「じょ……すっ、君……苦しっ」
抱かれる腕で圧迫され、息継ぎもままならないキスをして最初に音を上げたのは真琴の方だった。浮いた足をパタパタとさせ訴えると、章良が慌てて真琴を自由にする。
「ご、ごめん!」
「はぁ……そんなに強く抱かなくても、僕は逃げないよ」
章良の胸に額を押しつけ、何度か大きく深呼吸をしていた真琴が自分の視線の先を見て安心した様に目を細めた。
「……よかった」
「え? 何が?」
真琴はそのまま章良の身体に手を這わせながら跪つき、ズボンの前に出来た膨らみを上からそっと触りながら、章良を見上げる。
「……僕に反応してくれてる、嬉しい……」
「あ!!」
ここで漸く真琴が何を指して言っているのかを理解し、章良の顔が一気に夾竹桃の様に朱に染まった。
「正直、ちょっと不安だったんだ……君はああ言ってくれたけど、もしここまで望んでなかったらどうしようって」
真琴が章良のズボンのファスナーに手を掛けた時、章良の喉がゴクリと大きな音を立て、自分の股間を触る真琴を見下ろしながら「はっ」と息を吐く。
「マ……マコちゃん」
ファスナーを下ろし、下着の隙間から解放された章良のペニスは、既に上へカーブを描きなながら熱を持ちいきり立っていた。日本人離れしている章良の体型から想像出来るそこは、日本人のサイズより大きかったが、形や大きさとは対照的に陽焼けした浅黒い顔や腕と違い何処か初々しい色をしていた。
真琴は一度視線だけ上に上げ章良の顔を見ながら、章良のペニスを掌で包み込む様に数回ゆっくりと上下しそのまま目を伏せエラの張った亀頭と舌先でツっと舐める。
「ふっ……はっ!」
既にいつ爆発してもおかしく無いほど勃起しているペニスの先は、細い舌先で突かれただけでも腰が跳ねるほど感じ、章良は思わず自分の股間の間にある真琴の頭を両手で混ぜた。
「あっ、ちょ……ヤバイって」
真琴はチラリと章良の様子を覗い、その反応にふと表情を崩してそのまま舌を巻き付かせる様にし、先から徐々に飲み込んで行く。
久しぶりにするフェラチオは、喉の奥を刺激され少し嘔吐いてしまいそうになったが、どうにか堪えて喉の奥を広げて行った。頭の角度とペニスの角度を合わせれば喉まで使う事が出来ると言う事を真琴は知っている。小さく出し入れを繰り返して、何度目かにはペニスを全て咥える事が出来た。
「ふ――……んっ……」
頬に力を込め、喉の奥も閉めると真琴の口の中は章良の形となる。ピタリと密着し今度はゆっくりと吐き出して行く、その時、章良のペニスが口の中でドクンドクンと脈を打つのが解り、真琴は自分の奉仕で、章良が気持ち良くなってくれていると思うと、それだけで、自身の下半身が熱くなるのん感じる。
グポ、グポ、喉の粘膜の音を立てながら徐々にスライドする速度を上げ、真琴が夢中になって奉仕をしていると、突然頭を強く掴まれ無理矢理離された。
「はぁ、はぁ……あぁ……はぁ……」
「クッ……ああッ」
真琴の容赦の無い追い立てに、章良は絶頂のギリギリ手前で真琴を引き離す事に成功したが、思いっきり引き抜いた瞬間、真琴の歯がカリ首を引っかけてしまい、その刺激で呆気なく射精してしまった。ガクガクと揺れる腰に合わせ、まるで生き物の様に跳ねたペニスの先からは、濃い精液が勢いよく飛び散り、上を向いた真琴の顔を汚して行く。
「ぁ……」
真琴は章良の精液が目に入らない様に瞑っていたが避ける事なく、開いた口や滑らかな頬、そして長く黒い睫と黒髪へと熱い欲望が降り注ぐままにしていた。何度かに分けての射精が治まると、口の周りに着いたものをペロリと舐め取りゴクリと喉仏を動かし嚥下する。
「ご、ごめん! そのまま動かないで」
「……ん」
章良が部屋の角に置いてあったティッシュボックスからティッシュを取り、真琴の瞼や頬、前髪についた自分の精液を丁寧に拭き取って行った。綺麗になった真琴の顔を両手で覆い、そのまままたキスをする。今度は先ほどより深く、熱く、お互いの飢えを満たす様に貪った。
「マコちゃん……愛してる」
〝愛してる〟その言葉を聞いて真琴はハっとする。これまで誰かに愛していると言われた琴があっただろうか……。
「愛してる……僕も……僕も君を愛してる」
なんと言う威力のある言葉だろう、人の発する言葉には言霊と言う力が宿ると聞いた事があるが、これまで言葉に傷つけられて来た事はあっても、たった一言でここまで満たされる事は無かった。
「……愛してる……」
今、この瞬間、僕の命が終わっても良い
離れた唇が、自分の首筋から鎖骨へ下りて行き章良の熱い吐息が固く立ち上がった旨の頂きに当たるのを感じながら、真琴は閉じた目尻から幸せの涙を溢した。
【続】
2019/09/17 海が鳴いている22
八助のすけ
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