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第11話
「抱きます」
「ぁ、あぁぁ……」
滲む視界で見上げる先では、油を差したようにギラついた瞳で捉えられる。息を整える間も与えられず、裾から侵入され腰を撫でられて震わせる背。
「先に出します?」
暗ににおわされる複数回の誘いに気づく思考もなく、熱に浮かされた佐藤はどこか夢うつつに答える。
「……しょ、いっしょ、が……ぁンッ、いぃ……」
手際よく脱がされていく衣類に心細さを覚えながら、手にかけた相手のシャツは結局ボタンをひとつ外しただけ。
「こっち、来られますか?」
「ぅん……ひィッ!」
腕を引かれ膝に乗り上げて、走り抜けた悪寒にも似た快感に顎を跳ね上げる。
「一緒ですよ」
「……あ、」
血管を巡らせ、カサの張った、男のモノ。擦られる互いの逸物は同じようで違う。
「一緒に握ってください。――そう」
そそのかされて触れれば、すでに反り返り幹を濡らして粘ついた音を立てる。ズッシリと両手にあまるほどの二人分の灼熱。
「ぁ、ん、あン、アンッ、んンンッ……ゃあ、ぁ……いく、ィちゃぁぁ」
はじめはぎこちなく、けれど増すぬるつきと無意識に蠢く自らの腰に煽られる。動きが大胆になるのに時間はかからなかった。
湿った音と、上がった息が室内に散らばる。
「ココに」
不意に撫でられる一点。
「ココまで、入るのですよ」
「……ぁ、」
低い声に、佐藤はくしゃりと顔を歪める。
下腹部の中ほど、臍まであるだろうか。普段は息も絶え絶え、奥の奥まで探られ抉られ意識も朦朧とした中での行為を、未だ理性の残した状態でまざまざと知らしめられる。
「……ぁ、あぁ、ぁあ」
横山のモノを使って自慰をしている背徳感と、これから確実に己を侵す幹を育てるいいようのない期待と、その向こうにある苦痛にも似た甘美な快感に恐れをなす。
「やあぁぁ」
「……ふ、きもち、ぃいです」
耳元で紡がれる息を詰めながらの低いうなりにも、否応なしに感度をあげられる。
「あぁ、ああ、……もぅ、もう……ぃく、くぅ……っあ、ァアッ!」
限界の近さを訴えれば、思わぬところに感触を覚えて悲鳴とともに悶える。
「準備してくれたのですか?」
肉づきを確認するように尻を揉まれ、穴のシワを伸ばすように円を描かれる。風呂を借りた時に仕込んだ潤滑剤が、身体の火照りに比例してしたたり横山の指に絡む。誰よりも佐藤を知っている指に、前立腺を探り当てられてしつこくいじめられる。
「あ、ああっ」
目の前の肩に額を押しつけて快感を逃そうとするが失敗に終わる。睦み合いで立つ匂いを強く吸い込んで、さらにのっぴきならなくなる。いつのまにか屹立への刺激はおろそかになっていた。
「や、……ゃあ、だめ、ぁいく、ぁ……ぃあぁぁ」
うわごとのように漏らしながら力なくもがけば、自ら裏筋を擦ってしまい最後の一押しで絶頂に投げ出される。
「……ぃィッ!」
満足な言葉すら発せず、弛緩した身体を受け止めたのはスプリングの効いたベッドだった。抱きしめられていたときは床に座り込んでいたのに。それだけ夢中だった証明をされ、同時に押し寄せるのは忘れていた羞恥。
自分だけ先に達してしまった。
「……ごめ……ぁン」
「ん?」
「いっしょ、って……」
「充分、あおられて、ます」
佐藤に続いてベッドに片肘ついた横山は、己の手で頂を目指す。脱力した腕では屹立を煽る力は残っておらず、男のなまめかしい腹筋の動きに添えるだけ。
「ンんぅ……」
「……ああ」
醸し出される男臭い所作が、腹に散らばった二人分の精液が、落ち着きかけたネツをぶり返す。
静かな室内に、荒い吐息だけがこぼれる。
汗で張り付いた佐藤の前髪は掬われ、さらされた額にやさしく唇が落とされる。まぶたを、目尻を、口角を経由され、あまく舌を合わせる。微かな塩辛さから、どうやら泣いていたらしいと知らされる。
「ん、ぁ……」
もどかしく男を引き寄せ、生まれる湿った音に背筋を震わせる。首筋をたどり指の間を流れる彼の髪ですら、ジクジクとした官能を呼び起こす。
このぬるま湯のようなとろとろとした快感の中に、いつまでも浸 かっていられたらいい。
「……ひぅっ!」
ぼんやりと思考の波に漂っていれば、急な刺激に佐藤は目を見開いた。
腹に散った互いの白濁を混ぜられ、広げられる。ねとつく指はさらに伸び、しこった胸に這わされて弾かれる。芯をもって真っ赤に腫れた乳首が白濁を滴らせる倒錯的な視界に、佐藤は全身を朱に染める。
「いい色ですよ」
「ン、んン、んんんぅっ……やめ!」
粘液越しに絶妙なタッチで、もう片方は形を確かめるように、それぞれ違う刺激をしつこいくらいに与えられる。
「……ああぁだめ、ダメッ」
情事のたびに弄られ、上げられる感度に自分自身で混乱する。腫れた胸越しに射られる強い視線を見ていられず腕で遮るが、それもすぐに外されて平たい胸に施される愛撫を視認させられる。
あと、すこし。ふたたび迎えるだろう絶頂を漠然と感じる。
「あ、ぁン……ぇ、」
突然離されてとまどう。不満げな声が出たのは否定できない。
「挿入 れます」
息を整えながら上体を起こせば、すでに臨戦態勢になっている横山におののく。さっき出したばかりなのに、若いってすごい。中途半端に高められ火照る身体とは反対に、腹や胸に広げられた精液は乾きはじめ肌寒さを教える。
「ん、きて……」
鼻がつきそうなほど近くの顔を見上げてささやく。
赤面しつつの協力は足りなかったようで、さらに腰を上げられ枕を支 われる。
「とろとろ、ですね」
「あ、ぁ、ぁぁあ!」
目一杯広げられ、大きな熱の侵入を許す。なんど受け入れても慣れない、はじめの衝撃に逃げを打つ腰は逞しい腕に阻まれる。
無意識に寄せた眉間を撫でられ、佐藤の顔の輪郭を辿るように降りていく。仰け反った首筋に、なだめるような軽いキスを受ける。
「もう少し、このままでいましょうか」
したたり落ちてくる汗に、結ばれる口唇に、眇められる目に、横山の我慢を知らされる。
本当にいとおしい男だ。
己の快感よりも佐藤を気づかう男の指先を掬って、軽く歯を立てる。潤んで膜が張った目で流し見る先では、彼の喉仏が大きく嚥下する。
「……ん、んぅ……も、いぃ、よ。すきにして」
馴染んできた屹立をいたずらに締めつける。
「……ちょ、秋生さんっ!」
「ふふ……あ、あぅ、あぁ、あ、あッ!」
普段澄ましている声を焦らせて、してやったと優越に浸ったのは一瞬で、すぐに快感の渦に突き落とされる。送り込まれる律動が全身に甘いしびれを生む。
「……ぁま、ン、はや、ぃぃゆ、っくぃぃッ」
「むり、です。あなたが悪い」
腰を掴む腕に指を絡めて懇願するも却下される。
「……ひぅ!」
「わかりますか?」
滑った手を逆に掴まれて導かれる。
「そう、ここで繋がって、上手に、いっぱいに、頬張っている」
室内に散らばるねとつく音を証明する、指を滴る粘液。出入りする熱い屹立を掠めるようにして、爛れて盛り上がったふちを確認させられる。
「ああぁぅ」
「かわいいです、秋生さん」
「……そ、なこと……ぁああッ!」
深部を抉られ、白く弾ける視界。
「……ぁ、ぁぁ、……す、きぃぃ」
飲み下せない唾液に噎せながら、うわごとのように彼の名を繰り返す。
「愛しています」
臍の下を戯れに撫でられ、先ほどのやり取りを強制的に思い起こされる。さまざまな体液に塗れた佐藤の内と外から存在を刻まれる。不随意に身体を跳ねさせながら、逃すすべもなく過ぎる快感が身体を焼く。
「……ぁ、あ、あ、あぁぁ、あー、あーっ、アーッ!」
突き上げるだけでなく、不意に回される腰に満足な言葉も出ない。
ベッドの軋む音も、肌を打つ音も、荒い吐息も、すべてが遠い。
熱い飛沫を奥深くに感じつつ、佐藤の意識はついに切れた。
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