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第4話 そんな事もある
目が覚めるとひどく頭が痛かった。その上、少し気持ちも悪いし、体が鉛のように重い。
ああ、二日酔いは久しぶりだな―――と、朦朧とした頭で思ってから、瞬はビキッと体を固めた。
まず、自分が服を着ていない―――つまり裸な事に気付いて、続いて隣にある体温に冷や汗が出る。
―――え、まさか、いやいやいや。
昨日は高木と飲んだ。
仕事の話は一切なく、ずっとバカな話をして上機嫌に杯を重ねて―――。覚えているのは会計に財布を出したまで。五千円札を高木に渡した後、記憶が全くない。
さて、ここで問題です。隣にいるのは誰でしょう。
1番、同僚の高木先生。
2番、ゲイ友。
3番、見ず知らずの人。
瞬としては、2番でお願いしたい。
頭の中で誰かに拝んでいると、隣の人物がもぞっと動いた。
「お、はよう。」
隣から聞こえてきた声は、非常に色っぽかった。それが彼の声でなければ、掠れた声にうっとりとして、いそいそと乗っかってしまう所だ。
―――うわぁぁぁ、何してんの、オレ!!
正解は1番。
現実を受け入れられず、朝の眩しい光を呪いながら、瞬は再び目を閉じた。
「あれ、佐々原先生?」
「―――おはようございます。高木先生。」
高木に覗き込まれて逃げられず、瞬は挨拶しながら上半身を起こした。二日酔いの頭が痛む。
―――あれ?
瞬は全裸な様だが、隣の高木はシャツを着ていた。しかも、溜まっていた性欲は解消されていても、あの部分に違和感がない。
もしかすると、最後までしてないのだろうか―――と、頭を過る。いや、最後までしてなくとも、いただけない状況には代わりない。
「昨夜の事なのですが、」
「大変でしたよ。佐々原先生、お上手ですね。」
―――いや、何が!?
だらだらと嫌な汗が出る。頬をひきつらせる瞬を見て、ぷっ―――と、高木が吹き出す。
「すみません。ちゃんと説明します。あ、その前に着替えを出しましょう。」
高木がベッドを降りて、ウォークインクローゼットへ消えていく。
あまりの高木の平然とした態度に、経験値の高さを察せられる。きっとモテてきたのだろう。女にも、そして男にも。
しばらくしてから、シンプルなシャツとジーパンを身に付け高木が戻ってきた。普段着だといつもより若く見える。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
高木と同じような感じの上下の服と新品の下着を渡されて、瞬は頭を下げ受け取った。高木の話を聞きながら、瞬は布団の中でゴソゴソと新品の下着を履く。
「それで、続きですが。先生が潰れて寝てしまったので、仕方なくタクシーでうちに運び。家についたら、気持ち悪くなって起きて、トイレで吐かせました。その後、先生、何故か服を脱ぎ始めて、」
何してんの、やめて―――と、気が遠くなる。同僚の前で何してるんだ。これだけで憤死ものだが、続きがあるようで。
「慌てて着替えを用意しようとしたら、ベッドへ押し倒され、濃厚なキスをしてくださいまして。」
―――ええ、そうでしょうね。脱いだら、そうなりますよ。こう見えて、昔はヤりたい放題でしたから。
瞬は理想が高いが、高木くらいルックスが整った男であれば、自ら乗っかりにいくのは目に見えている。貞操観念は低いし、気持ちいい事が大好きなのだ。
オレ、淫乱じゃないかな―――と、教師になるまでは思っていた。酒が入って、禁欲生活が爆発したのだろう。同僚とするくらいなら、適当な男と定期的に解消しておけば良かった。
瞬が衣服を身に付けると、高木がベッドに腰を下ろす。ひと心地つくと、さっきまでの動揺がやっと落ち着いた。
「押し倒されるのは趣味じゃないので、ポジションを入れ換えたら、とても可愛い佐々原先生が見れました。」
―――あ、ちょっと思い出したかも。
高木が覆い被さってきた姿が、ぼんやりと目の前に浮かんできた。
この人、雄の顔してたな―――と、まるで映像で見たもののよう感じる。かなりあやふやで現実味はないが。
「ああ、心配しなくても、最後まではしてませんよ。」
「ほ、本当に?」
やはり最後まではしてないようだ。
不幸中の幸いか。
瞬がすがるように見上げると、高木が安心させるように微笑む。
「エロめのキスして、ちょっと触ったくらいです。オレも酔ってたので、お互い様って事でお願いします。」
―――触ったって、ナニを?
聞けない。
ぐむむっと瞬が唇を噛むと、高木がその唇をスルッと撫でた。不意打ちに少しドキッとする。
「大丈夫です。他言しません。佐々原先生は男の方が好きなようですが、オレはバイセクシャルです。教師になってからは、外聞があるので、女性としかお付き合いはしてませんが。同僚として、今後とも仲良くしてください。またお酒、飲みましょうね。」
そう言って、高木が穏やかに微笑む。
何て、スマートな男だ。
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