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第6話 どういう意味

見てるけど、見てないフリ。 気にしてるけど、気にしてないフリ。 欲しいけど、欲しくないフリ。 そういう態度は、かなり得意な方。 先週末、西倉から意味深な事を聞かれた。西倉をどう思うか―――と言うあやふやな問いかけ。 ―――ストライクど真ん中です。 正直にそんな事を言える筈もなく、生徒でしょ―――と、言い捨て何とか逃げ切った。いったいどんなつもりだったのか、あれから幾度となく思い返してしまう。 口説かれているようにも、告白まがいの言葉にも、そして、軽い誘いの文句のようにも聞こえる。 その前の会話が高木との関係を疑うような内容だったから、男同士がどんなものか興味を持ったのかもしれない。本当の所は分からないが、何となく、そう辺りをつけて納得している。 どれが真実にしろ、瞬は犯罪者になるつもりはないので、今後もスルーの方向だ。まあ、あれからアクションはないので、今後があるとも思えないのだが。 ―――執着してくれないかなぁ。 バカな事を考えてみたりする。 興味本意であれ、西倉からそういう風に意識されて、嬉しかったのだ。どうこうなる気はないのだから、随分と矛盾している。 「佐々原先生、元気ないですね?」 瞬が食後の紅茶を飲んでいると、隣にいた高木に首を傾げられた。ハッと我に返る。人といる事を忘れるほど、思考の沼に嵌まっていた。 らしくない。 「そうですか?年ですかね。」 「週末に飲みに行きます?愚痴でも、何でも聞きますよ。」 「そうですね。」 いつもなら即答する所だったが、3週間前の過ちが頭を過る。最後までしていないと言えど、1度経験していれば、ストッパーが外れている状態だ。酒が入ってしまえば、簡単に体を開いてしまうかもしれない。いや、確実にやってしまう。 溜まってるのだ。 ぶっちゃけヤりたい。頭の中を真っ白にして、気持ちいい事だけしたい。夜な夜な夢想してしまうくらい症状が悪化している。 けど、職場の人間とは無理だ。 「今週は止めときます。また誘ってください。」 「あれ、フラレちゃいましたね。残念。」 ちっとも残念とは思ってなさそうに高木が言うと、瞬の背後に視線を外した。 「どうした?」 高木の声を聞き、生徒かな―――と、思いながら瞬は振り返った。 ―――西倉。 西倉の顔を目にして、くぅっと胸の奥が切なくなる。授業は別として、こんなに近くにいるのは1週間ぶりくらいか。 「西倉。佐々原先生に用事か?」 「そうです。」 「もう昼休み終わるから早く戻れよ。じゃあ、私は先に。」 高木の後ろ姿が消えていくと、視線のやり場に困り、瞬は紅茶のペットボトルを飲み干した。さっきより美味しくなくなった気がする。 「先生、高木とまた飲むんですか?」 「だから?」 「ダメです。」 真っ直ぐに飛んできた西倉の言葉に、瞬は胸を撃ち抜かれて一瞬硬直した。 ―――ダメって、おまえね。 「何で、西倉に禁止されなくちゃいけないの?好きな人と飲むよ。」 瞬はグラグラする心を立て直し、すぐに呆れた顔を作って言った。すると、西倉が何故か驚いたように目を見張る。何もびっくりするような事は言っていないが。 「高木が好きなのかよ?」 「ちょっと、変な誤解しないでよ。そういう好きじゃないから。」 慌てて否定すると、西倉がほっとしたように息を吐く。安堵されても困る。 「相手が高木先生でも、違う人でも、飲みたい時に飲みに行くって話。」 「嫌だ。」 「だから、何でキミに―――」 キンコーン―――と、授業開始5分前の音が響き、そこで西倉との話は強制終了となった。

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