6 / 24
第6話 どういう意味
見てるけど、見てないフリ。
気にしてるけど、気にしてないフリ。
欲しいけど、欲しくないフリ。
そういう態度は、かなり得意な方。
先週末、西倉から意味深な事を聞かれた。西倉をどう思うか―――と言うあやふやな問いかけ。
―――ストライクど真ん中です。
正直にそんな事を言える筈もなく、生徒でしょ―――と、言い捨て何とか逃げ切った。いったいどんなつもりだったのか、あれから幾度となく思い返してしまう。
口説かれているようにも、告白まがいの言葉にも、そして、軽い誘いの文句のようにも聞こえる。
その前の会話が高木との関係を疑うような内容だったから、男同士がどんなものか興味を持ったのかもしれない。本当の所は分からないが、何となく、そう辺りをつけて納得している。
どれが真実にしろ、瞬は犯罪者になるつもりはないので、今後もスルーの方向だ。まあ、あれからアクションはないので、今後があるとも思えないのだが。
―――執着してくれないかなぁ。
バカな事を考えてみたりする。
興味本意であれ、西倉からそういう風に意識されて、嬉しかったのだ。どうこうなる気はないのだから、随分と矛盾している。
「佐々原先生、元気ないですね?」
瞬が食後の紅茶を飲んでいると、隣にいた高木に首を傾げられた。ハッと我に返る。人といる事を忘れるほど、思考の沼に嵌まっていた。
らしくない。
「そうですか?年ですかね。」
「週末に飲みに行きます?愚痴でも、何でも聞きますよ。」
「そうですね。」
いつもなら即答する所だったが、3週間前の過ちが頭を過る。最後までしていないと言えど、1度経験していれば、ストッパーが外れている状態だ。酒が入ってしまえば、簡単に体を開いてしまうかもしれない。いや、確実にやってしまう。
溜まってるのだ。
ぶっちゃけヤりたい。頭の中を真っ白にして、気持ちいい事だけしたい。夜な夜な夢想してしまうくらい症状が悪化している。
けど、職場の人間とは無理だ。
「今週は止めときます。また誘ってください。」
「あれ、フラレちゃいましたね。残念。」
ちっとも残念とは思ってなさそうに高木が言うと、瞬の背後に視線を外した。
「どうした?」
高木の声を聞き、生徒かな―――と、思いながら瞬は振り返った。
―――西倉。
西倉の顔を目にして、くぅっと胸の奥が切なくなる。授業は別として、こんなに近くにいるのは1週間ぶりくらいか。
「西倉。佐々原先生に用事か?」
「そうです。」
「もう昼休み終わるから早く戻れよ。じゃあ、私は先に。」
高木の後ろ姿が消えていくと、視線のやり場に困り、瞬は紅茶のペットボトルを飲み干した。さっきより美味しくなくなった気がする。
「先生、高木とまた飲むんですか?」
「だから?」
「ダメです。」
真っ直ぐに飛んできた西倉の言葉に、瞬は胸を撃ち抜かれて一瞬硬直した。
―――ダメって、おまえね。
「何で、西倉に禁止されなくちゃいけないの?好きな人と飲むよ。」
瞬はグラグラする心を立て直し、すぐに呆れた顔を作って言った。すると、西倉が何故か驚いたように目を見張る。何もびっくりするような事は言っていないが。
「高木が好きなのかよ?」
「ちょっと、変な誤解しないでよ。そういう好きじゃないから。」
慌てて否定すると、西倉がほっとしたように息を吐く。安堵されても困る。
「相手が高木先生でも、違う人でも、飲みたい時に飲みに行くって話。」
「嫌だ。」
「だから、何でキミに―――」
キンコーン―――と、授業開始5分前の音が響き、そこで西倉との話は強制終了となった。
ともだちにシェアしよう!