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第7話 酔っ払いにつき
別に西倉に言われたからではないが、瞬はひとり家で飲んでいる。流しているDVDは、最初から全く集中できずに、見ることを放棄してしまって、久しい。
「ん~、これかなぁ。」
当然、ひとりで夜を過ごしている訳で、溜まった性欲は解消されていない。ゲイ友に連絡を取りたくなる気持ちをぐっと押さえ、誤魔化すようにボトルを空け続けた結果―――、すっかり酔っぱらっていた。
「でもな~、どうしよっかな~。」
ひとりで解消するには、自慰をするしかない。
そういう訳で、瞬は酔っぱらいの頭で、真剣に悩んでいた。何を悩むかと言うと、自慰をするかどうかでなく、どれで自慰をするかを、だ。
「これかな。」
テーブルに並べた道具たちの前で、20分以上悩みやっと1つを選んだ。雄の形をしたバイブ付きのアイテムだ。
それ以外をザッと元のケースに直して、ルンルンと服を脱ぎながら、瞬はバスルームへ向かった。選んだアイテムを受け入れる為の準備をしなければならない。
面倒だなぁ―――とも思うが、お尻でないと満足できない体になってしまっている。
15分ほど時間をかけて、お尻の中をキレイにした。ルンルンと鼻唄を歌いながら、バスタオルで体を拭く。その些細な刺激でさえで、瞬の体は気持ちよく感じるようになっており、ぞわっと肌が粟立つ。
さあ、これからという時に、ピンポーン―――と、インターフォンが鳴った。もちろん無視を決め込んだが、2度、3度と鳴り響く。
「はぁ―――、だれだよ。」
瞬はブツブツと文句を言いながら、下着も身に付けずにスエットのズボンだけを履いて、玄関に向かった。
言い訳すると、酔っ払っていたのだ。
だから、来客が誰かも確認せずに、苛立ちのままドアを開けた。
「―――に、し、」
「先生、あなたね。」
西倉が慌てて、瞬の体ごと中に入ってくる。押された拍子に膝が崩れて、瞬はひとり尻餅をついた。フローリングの冷たさが気持ちいい。
座ったまま見上げると、西倉が怒ったような顔をしていた。
「何て格好で出てくんですか。」
「シャワーしてたんだよ。いえ、なんで、しってんの?」
瞬がぼんやりと問い掛けると、西倉が玄関にしゃがみ込んだ。じっと顔を覗き込まれ、瞬はこてんと首を傾げる。
「にしくら?」
「先生、酔ってますね。呂律が回ってない。」
西倉にからかい気味に言われ、瞬はむうっと頬を膨らませた。
「せんせいは、おさけ、のんだら、だめなんですか~。」
ダメな教師の見本みたいな事を瞬が言うと、西倉に指で頬を撫でられた。触るか触らないかの微妙な感覚に、ふっ―――と、熱い息が出る。
「可愛い過ぎるから、外では飲まない方がいいですよ。」
「かわいい?」
「すげえ、可愛い。」
西倉に可愛いと言われて喜んでしまう。ふわふわと瞬が笑うと、西倉がぐっと眉を寄せた。
「なに、」
何、その顔―――と、瞬が言いかけた時に、ツーッと髪から顎、顎から胸へ水滴が落ちてきた。慌てて出てきたから、ちゃんと拭けてなかったのだろう。
すると、手に持っていたバスタオルを西倉が取り、瞬の頭に被せてきた。ガシガシとバスタオルで頭を拭かれる。
ペットにでもなった気分だ。
「いつもこんなになるんですか?高木とはよく飲みに行くんだろ?」
「たかぎせんせいとは、よくのむ。このまえは、つぶれて―――」
瞬が言葉を切ると、西倉も拭いていた手を止めた。バスタオルの隙間から覗き、西倉の顔を伺う。
「やっぱり、何かあったんでしょ?」
「きすとか?」
「キスだけ?どこか、触られたりはしました?」
西倉に矢継ぎ早に問われ、瞬は逃げるように顔を伏せた。バスタオルがするりと下に落ちる。
「先生、答えて。」
「おぼえてない、けど、いろいろ、さわったりしたと、」
「へぇ。」
地を這うような声に顔を上げると、そこには目をギラつかせた西倉がいた。
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