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第10話 予約受付中

背中を撫でられる感覚に邪魔をされて、目が覚めた。くすぐったさに、鳥肌が立つ。 あまりに怠い体に寝返りすらままならない。うつ伏せの体勢で重い瞼をこじ開けると、そこには西倉がいた。 「先生、おはよう。」 「―――にし、ら、」 ガラガラの掠れた声が出た。ますます不快になり、爽やかに微笑んでいる西倉を睨み付ける。 「くそ、にしくら、」 「ひでえ、先生。」 西倉が嬉しそうに声を上げて笑う。 「このきちく、ちろう、ぜつりん。」  「ありがとうございます。」 「―――あのね、褒めてないから。」 トロリと溶けそうな顔を西倉から向けられ、瞬はスイッと視線を反らして、仰向けになった。ギシギシと体が軋む。 「死ぬかと思ったんだからね。こっちの年、考えなよ。あ~、怠い。」 「先生、気を失うほど気持ちよかったんですよね。オレもめちゃくちゃ気持ちよかった。次回はもっと頑張ります。」 そう言って西倉が身を屈めて、瞬に顔を寄せてくるので、慌てて手で阻止する。 「―――ちょっと、無いからね。次とか無いよ。もう絶対しないから。今回の事は、事故とでも思って忘れて、」 「何、言ってんですか。忘れませんよ。」 西倉が不貞腐れたように言いながら、瞬の手をあっさりと捕らえる。 「先生。もう諦めて、オレと付き合ってください。いいでしょ?」 「―――何、血迷ってんの。オレ、男の教師なんだけど。西倉、モテるんだから、普通に女の子と付き合いなさい。」 「先生とがいい。先生が好き。」 瞬の手を引き寄せて、そこへどこかの王子のような仕草で、ちゅっと西倉が唇を押し付ける。あまりにらしくない行動が面白くて、ぷっ―――と、瞬は吹き出した。自分でやっておいて、少し照れたような顔をする西倉が可愛くて仕方ない。 そんな顔、見せないでよ―――と、思う。 「ばか。冷静になりなって。今は何となく、そんな気になってるだけだから。」 「それって、オレの気持ちが軽いって事?」 西倉が不服そうな顔になり、瞬は苦笑いした。 「気持ちの軽さなんて、大人になったって分かんないよ。ただキミよりも、多少は見える事があるだけ。」 「大人だから?」 「そう、大人だから。何にしろ、教師だから、生徒とは絶対に付き合わない。」 ふ~ん―――と呟き、西倉が考えるように宙を見て、また瞬に視線を戻す。 「付き合わない1番の理由は、オレが生徒だから?」 「まあ、そうだね。」 瞬が頷くと、西倉がパッと顔を明るくする。 「じゃあ、予約しときます。卒業したら、恋人になってください。」 「は、ぁ?」 ―――予約?卒業したら? 突飛すぎる西倉の発想についていけない。瞬が混乱して瞬きを繰り返すと、西倉が得意そう笑う。 「先生に見える事が何なのか知りませんけど、とりあえずオレが生徒じゃなければいいんでしょ?なら、卒業まで頑張ります」 「ほ、本気?」 「本気。それまでに口説き落としますんで、覚悟しておいてください。先生。」 西倉が嬉しそうに宣言し、瞬はひくっと頬をひきつらせた。

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