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第11話 第一印象

Nishikura side――― 朝練を終えて教室へ着くと同時に、西倉晴也は売店で購入したパンの封を切った。周りでもビリッバリッと袋を破る音があちこちからして、教室内に食べ物の匂いが充満する。 他のクラスからすれば、きっと異様な眺めだろう。 うちのクラスは全員が体育系の部活に所属している為に、朝練を終えれば、胃の中はすっかり空になっている。食べ物を補給しておかないと、きっとホームルームすら乗り切れない。 大袈裟ではない。 今、ひとりの例外もなく、何かしら食べ物を口にしている。今日が始業式とはいえ、いつもと何ひとつ変わらない朝の光景だ。 晴也がパンを頬張っていると、隣の席の橘昇一郎が身を乗り出してきた。橘の手には、チョコにまみれたパンがあり、思わず眉間にシワが寄る。 甘いものは見るのも嫌だ。 「晴也、テスト勉強したか?」 「まさか。オレがすると思うか?」 「だよな。」 橘が上機嫌に笑みを浮かべながら、チョコのパンにかぶり付いた。 今日が始業式ということは、明日からの4日間はテスト期間になる。赤点を取らなければクリアとなるのだが、残念ながら取る自信しかない。 また追試だろうな―――と、晴也は他人事のように思った。 「席につけ~、始めるぞ~。」 わがクラスの担任の久保山祥平が、怠そうな声をかけながら教室に入ってくる。担任もクラスメイトも3年目ともなれば、新鮮味の破片もない。 生徒たちがダラダラと席につくと、久保山もダラダラと新学期の話をし始めた。 ―――あれ? 隣の席の橘の視線につられて晴也が振り返ると、教室の1番後ろに人が立っていた。その品のある真面目そうな顔立ちは、晴也の死滅した脳細胞にも、記憶に刻まれている。 ―――佐々原、だったか? 去年の今ごろ、イケメン教師の登場に女子が随分と黄色い声で騒いでいたし、ちょこちょこ噂にもなっていた。 何組の何とかサンが告白してフラれた、とか。教師が生徒を相手にする筈ない。頭の悪い晴也にだって分かる事だ。 「佐々原じゃん。」 やはり『佐々原』で合っていたようで、橘がコソコソと耳打ちしてくる。 去年は一切関わりがなかったから、身近で佐々原の顔を拝む機会がなかった。 確かにイケメンだ。 頭が良さそうだが、近寄りがたい雰囲気はなく、柔らかな大人の色気を漂わせている。女子が騒ぐのも無理はない。 「佐々原瞬です。3年生の社会を担当します。1年間、よろしく。」 爽やかに佐々原が挨拶をして、美しい姿勢で頭を下げた。ストレートの茶色がかった柔らかそうな髪が、サラサラと滑らかに動く。 ―――人種が違うな。 それが、佐々原瞬への第一印象だった。

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