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第12話 第二印象
Nishikura side―――
3年に上がって始めてのテストで、わがクラスは赤点続出の悲惨な結果となった。いつも寛大な校長も、今回の事には、さすがに頭を抱えたらしい。
よって、その救済措置に選ばれたのが、副担任の佐々原だった。
「オレはね、この1週間で悟ったんだよ。」
フフフッ―――と、佐々原が隈の出来た顔で笑う。かなり不気味だ。
売れない物書きのような哀愁が漂ってきている。実際に売れない物書きと会った事はないから、晴也のイメージでしかないが、苦悩が佐々原の背中に見える気がした。
―――意外。
いつも飄々としていて、穏やかで人当たりが良い代わりに、教職に対してそこまでの思い入れはないのだと思っていた。
なのに、たぶん晴也たちの為に憔悴している。
こちらが心配になるほど、必死な佐々原の様子を、晴也は意外に感じた。
いつもならガヤガヤと騒がしいクラスメイトも、ピタリと口を閉ざし固まってしまっている。
「キミたちに赤点を取らせないように、久保山先生から言われてるんだけどね。ハッキリ言って、無茶だ。無謀だ。死んでも、無理だ。」
佐々原がギラギラとした目で、固まっているクラスメイトを見渡す。酷い言われようだが、全くもって真実なので、晴也たちはただ頷くしかできない。
コクコクと皆が反論もせず頭を動かすと、佐々原が高飛車な顔で満足げに頷く。
普段の佐々原のキャラは仮面か。
女王様―――と、クラスの誰かがボソリと呟いた。
晴也も同感だ。
「だからね、反則技に出ます。各教科、オレの独断でヤマはったから、これ―――」
佐々原が目だけ光らせた無表情な顔で、教壇に乗せていたプリントの束を指差す。
「丸暗記して。同じ事を何度も何度も、しつこいくらい繰り返すから。覚えるだけだから、簡単でしょ?ちゃんと覚えるまで、部活に行かせないよ。」
部活ができないのは困る。
ええっ―――と、非難の声を上げそうになったが、佐々原の眼力に口を封じられる。
「分かったね?」
口答えは許さないとばかりに佐々原が言う。
はぁい―――と、晴也たちはらしくもなく小さな声で返事をした。
「よろしい。じゃ、プリント配るから。」
目の下の隈はそのままだが、いつもの穏やかさを取り戻し、佐々原が微笑む。聖母じみた顔だが、さっきの今で誰も素直に受け取れず、ひくりと頬をひきつらせた。
―――変な教師。
これが佐々原瞬への第ニ印象だった。
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