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第15話 夏が来ます

随分と昔の話だ。 佐々原瞬が初めて付き合った相手は教師で、8歳年上の大人の男だった。始まりは高校2年の夏で、翌年の夏に終わった。 たった1年間の短い恋。 もう胸が痛むことはないけれど、ふとした瞬間に思い出してしまうのは、きっと心残りがあるからだろう。 ―――などと、少し浸ってみても、目の前の現実が変わる筈もない。分かっている。 これは、ただの現実逃避だ。 「あれだけやったのに―――、」 並べられた答案用紙の赤のバツに、瞬は呻きながら頭を抱えた。あるまじき反則技を使ってまで、全員を一発クリアさせる気でいたのに、少ないとはいえ赤点がいるとは。 ―――こいつらのバカさ加減を舐めていた。 「さっちん、でも、ほら補習は3人だけだしさ、」 橘昇一郎が慰めるように声をかけてくる。その橘本人も赤点をひとつ取っているのだから、いまいち慰めにならない。 まあ、あの橘が補習を免れたのだから、ここは褒めておくところだろう。うちの高校では、赤点ふたつ以上が補習の対象だから、一応、橘は免れている。 「橘は、まあ、今回がんばったね。再テストはちゃんとクリアしてよ。」 「まかせて、さっちん。」 橘がニカリと笑いながら親指を立てるが、いまいち信用はできない。橘には苦笑いを返して、瞬は教室の生徒たちをグルリと見渡した。 「さて、補習が決定している3人だけど、当然ながら部活は禁止に決定しました。」 瞬の宣言に、教室内が焦ったようにどよめく。 夏は高校総体の季節だ。 どの部も今から本格的な練習に入る筈で、練習に参加できない生徒はかなり出遅れる事になる。 しかし、仕方がない。毎年の事なのだから、はじめから分かっていたのだし、補習の3人に同情の余地はないだろう。 「補習は来週の頭からで、その後に再テスト。再テストに自信ない人は補習に参加してくれてもいいけど、部の顧問に必ず許可を得ること。補習組の3人は、もし1回でもサボったりしたら、問答無用で退部させられるから。」 クラスメイトに肩をつつかれる3人を順に目で追うと、西倉晴也の姿が視界に入った。 あれから西倉とは表面上は何もない。フラリと社会科準備室を訪れる事はあるが、普通の生徒と教師のように、当たり障りのない会話しかしていないし、もちろん家に来るような事もない。 ―――そのまま諦めてくれれば。 しかし、ふとした瞬間の、西倉の視線がそれを裏切る。焦げるほどに熱い視線から逃げるように、瞬は答案用紙の赤いバツに目を落とした。

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