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第16話 禁酒にて失礼

瞬は苦虫を噛み締めながら、補習で使うプリントをコピーしていた。 「そう言えば、佐々原先生。そろそろ誕生日じゃなかったですか?」 隣のコピー機を使っていた高木が、ふと思い出したように言う。 その話題に、瞬は少し虚をつかれた。今の今まですっかり忘れていたが、言われてみれば、確かにもうすぐ誕生日だ。 「ええ、来週です。よく覚えていましたね。」 「甥っ子の誕生日と近かったので、覚えてました。そうですか、来週ですか。」 去年の今ごろに、今日は2、3歳くらいの甥っ子の誕生日なのだ―――と、高木が話していた事を思い出した。その際に、瞬も誕生日を言ったのだろう。にしても、高木の記憶力に感心する。 「近々飲みに行きませんか?誕生日祝いに奢りますよ。」 「あ~、行きたいんですが。」 酒による失敗の連続で、瞬はやむなく禁酒中である。行きたい気持ちは多大に有りつつも、瞬は曖昧に言葉を濁しながら、コピー機が吐き出したプリントを揃えた。 そんな瞬の様子に、高木がカラリと笑う。 「じゃあ、約束はせずに、行けたらって事で。気が向いたら飲みましょう。」 「はい、すみません。ハッキリしなくて。」 「いえいえ、構いませんよ。補習ですよね。いってらっしゃい。」 「いってきます。」 ヒラヒラと手を振る高木に頭を下げて、瞬は職員室を後にした。プリントを手に廊下を歩いていると、急に二の腕を掴まれて、ビクッとなる。 「―――西、倉か。びっくりした。」 瞬が目を丸くして見上げると、西倉だった。ジャージ姿だ。西倉は補習組でないから、今から部活なのだろう。 掴まれたままの腕に視線を落とすと、西倉はあっさりと手を離した。 「土曜、家に行っていいですか?泊まりで。」 「は?いやいや、ダメでしょ。」 ギョッとしながら瞬が断ると、西倉がニヤリと何か企んだ顔で笑う。 「なあ、先生。オレ、いい子にしてたろ?そろそろご褒美くれないと暴走すっかも。」 「ぼ、暴走って、」 「今、ここで抱きしめたり、キスしたり。いや、キスだけで止まるかなぁ。」 いや、冗談だろう―――と、瞬は笑い返そうとしたが、真っ直ぐな西倉の目とぶつかり、ヒクリと頬をひきつらせた。 ―――本気だ、コイツ。 こんな所でキスでもしようものなら、瞬は懲戒免職であろうし、西倉の将来にだって影を落とすだろう。普通の高校生であれば、教師との噂などすぐに流れてしまうだろうが、西倉は普通ではない。 卒業後、プロのチームに入り即戦力としてやっていけるほどの選手なのだ。注目度は全国レベルで、こんな事で躓いていい筈はない。 それを、分かっているのか。 ―――若さか。 いや、瞬は高校生の時にそんな真似をしようなど思わなかった。 やはりバカだからか。バカって怖い。 「わかったから、学校では止めてくれ。」 降参した瞬に、西倉が勝ったように笑った。

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