19 / 24
第19話 焼けぼっくいに
昨日の疲れを引きずりとても自炊する気にならず、瞬はコンビニで食料の調達をしていた。
久しぶりのコンビニだったが、並んでいる商品は以前とあまり変わっていない。適当に3食分くらいのパンやサラダをカゴに入れていると、ポンと肩を叩かれた。
「うわっ、西倉、」
振り返ると何故か西倉が立っており、瞬は驚いて後ずさった。拍子に、パンの陳列されている棚に背中が当たる。
「先生、仕事じゃなかったんですか?」
西倉がムッとした顔で聞いてくる。
昨日の泊まりの約束は、瞬が一方的にドタキャンした。本当に仕事の為なのだが、やはり思わぬ日吉との再会のせいでもある。
「仕事だよ。家に隠って仕事しなきゃなんないの。だから、買い出しに来てるんだよ。それより、西倉、部活にしては遅くないか?」
「今日は昼からです。」
西倉は部活スタイルで、肩には大きなスポーツバッグをかけている。部活だろうと思ったが、いつも朝からしているのに、珍しく昼かららしい。
―――あ、だから、昨日だったのか。
今日の朝ゆっくりできるから、土曜の夜に泊まりたかったのだろう。
それを遅まきに悟り、ますます気まずくなった。どんな顔をすればいいのか分からずに、ウロウロと視線がさ迷う。
「これ買ってくるから。」
「じゃあ、オレ、あっちにいます。」
瞬としては、できれば今すぐサヨナラしたかったが、西倉の方に解放するつもりはないらしい。
西倉は雑誌コーナーを指差して、クルリと踵を返した。
はぁぁ―――と、ため息が出る。
今日は西倉と顔を合わせる事はないと思っていたから、心の準備というか、整理がまだ出来ていない。不意打ちだ。
コンビニを後にし、暑い日差しのなかを西倉と並んで歩く。
「先生、何かありましたか?」
「何かって―――。本当に仕事なんだけど。」
「いや、それは疑ってないから。」
こちらへおかしそうに笑ってから、西倉がまた前を向く。
「じゃなくて、昨日の電話で何か元気なかったし、今日もやっぱ変だし。何かあったんだろうなぁ、って。」
「―――変、かな。」
まさか見抜かれているとは思わなかったし、それを心配されているなど。だからと言って、日吉との事を言える筈もなく、瞬は唇を噛んだ。
「そんな顔しないでください。聞き出そうとか思ってないから。先生の力になりたいって思っても、オレ、ガキだし。何にも出来ないの、ちゃんと分かってます。」
「西倉。」
「いや、ただ先生の顔、見たかっただけかも。」
フッ―――と、西倉が冗談目かして笑う。
「じゃあ、先生、また明日。」
瞬のアパートの下に着くと、西倉は手を振って駆け出した。この暑い最中、あんなスピードで走ればすぐに汗だくだろう。
あっという間に小さくなる西倉の背中を見ながら、瞬はひとり迷子の子供にでもなったような気になった。
「あ~、」
会いたかった―――と言う、日吉の声が耳の奧にずっとこだましていた。
ともだちにシェアしよう!