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第19話 焼けぼっくいに

昨日の疲れを引きずりとても自炊する気にならず、瞬はコンビニで食料の調達をしていた。 久しぶりのコンビニだったが、並んでいる商品は以前とあまり変わっていない。適当に3食分くらいのパンやサラダをカゴに入れていると、ポンと肩を叩かれた。 「うわっ、西倉、」 振り返ると何故か西倉が立っており、瞬は驚いて後ずさった。拍子に、パンの陳列されている棚に背中が当たる。 「先生、仕事じゃなかったんですか?」 西倉がムッとした顔で聞いてくる。 昨日の泊まりの約束は、瞬が一方的にドタキャンした。本当に仕事の為なのだが、やはり思わぬ日吉との再会のせいでもある。 「仕事だよ。家に隠って仕事しなきゃなんないの。だから、買い出しに来てるんだよ。それより、西倉、部活にしては遅くないか?」 「今日は昼からです。」 西倉は部活スタイルで、肩には大きなスポーツバッグをかけている。部活だろうと思ったが、いつも朝からしているのに、珍しく昼かららしい。 ―――あ、だから、昨日だったのか。 今日の朝ゆっくりできるから、土曜の夜に泊まりたかったのだろう。 それを遅まきに悟り、ますます気まずくなった。どんな顔をすればいいのか分からずに、ウロウロと視線がさ迷う。 「これ買ってくるから。」 「じゃあ、オレ、あっちにいます。」 瞬としては、できれば今すぐサヨナラしたかったが、西倉の方に解放するつもりはないらしい。 西倉は雑誌コーナーを指差して、クルリと踵を返した。 はぁぁ―――と、ため息が出る。 今日は西倉と顔を合わせる事はないと思っていたから、心の準備というか、整理がまだ出来ていない。不意打ちだ。 コンビニを後にし、暑い日差しのなかを西倉と並んで歩く。 「先生、何かありましたか?」 「何かって―――。本当に仕事なんだけど。」 「いや、それは疑ってないから。」 こちらへおかしそうに笑ってから、西倉がまた前を向く。 「じゃなくて、昨日の電話で何か元気なかったし、今日もやっぱ変だし。何かあったんだろうなぁ、って。」 「―――変、かな。」 まさか見抜かれているとは思わなかったし、それを心配されているなど。だからと言って、日吉との事を言える筈もなく、瞬は唇を噛んだ。 「そんな顔しないでください。聞き出そうとか思ってないから。先生の力になりたいって思っても、オレ、ガキだし。何にも出来ないの、ちゃんと分かってます。」 「西倉。」 「いや、ただ先生の顔、見たかっただけかも。」 フッ―――と、西倉が冗談目かして笑う。 「じゃあ、先生、また明日。」 瞬のアパートの下に着くと、西倉は手を振って駆け出した。この暑い最中、あんなスピードで走ればすぐに汗だくだろう。 あっという間に小さくなる西倉の背中を見ながら、瞬はひとり迷子の子供にでもなったような気になった。 「あ~、」 会いたかった―――と言う、日吉の声が耳の奧にずっとこだましていた。

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