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第20話 火は
月曜からいつも通りに高校が始まると、日吉との再会に対する動揺は嘘のように収まった。補習をしたり、再テストをしたりと忙しく過ごし、はた―――と、気が付けばもう木曜日の昼だった。
何故、このタイミングで思い出したかと言うと、昼休みになりスマホを確認した所、日吉からの着信があっていたからだ。
メッセージは残されておらず、掛け直すか少しだけ迷って、結局はスマホをテーブルに置いた。
代わりに箸を手に持つ。瞬がキュウリを口に入れると、コンコンと社会科準備室のドアがノックされた。
「はい、どうぞ。」
モゴモゴとキュウリを噛みつつ、瞬が返事をすると、ドアが開いてひょこっと西倉が顔を見せた。瞬の顔を見て、やけに無邪気な笑みを浮かべる。
まだ噛み砕いていないキュウリを飲み込んでしまい、喉に詰まった。
「うっ、んぐっ―――」
「先生、一緒にメシ食おう。」
西倉が遠慮もなくズカズカと進入して来る。
瞬は飲み損ねたキュウリが変な所に入って、ゲホゲホと咳き込んでおり、西倉を拒むタイミングを逃した。
「―――西倉、教室で食べなよ。」
瞬の今さらな言葉を口にした時に、西倉はソファに腰を下ろして、既に弁当箱を広げていた。西倉の母親は料理が上手らしく、弁当の中身は色鮮やかでとても美味しそうだった。
凝視する瞬を放って、いただきます―――と、西倉は礼儀正しく両手を合わせる。ガツガツと高校生らしく食べ始めた西倉を盗み見なから、モソモソと瞬も食事を再開した。
―――やはり、野生の勘なのか。
どうして、何となく会いたくないと思っている時に限って、西倉は現れるのか。
先日といい、今日といい。
単に偶然が重なっただけなのだろうが、理性より本能で動いているような西倉だ。もしかすると本当に何か、虫の知らせ的なモノを感じているのかもしれない。
「先生、夏休みは学校にいますか?」
「あ、いや。講演会とか勉強会とかで、外にいる事が多いかな。まあ、たぶん半分くらいはいると思うけど、―――何で?」
「何でって。本気で分かりません?」
信じられない―――とでも言うように、西倉が呆れた顔で聞いてきた。ムッとする瞬に対して、態とらしく西倉がため息を吐き出す。
「あのさ、オレ、先生が好きだって言ったよな?」
「あ、う、い、」
突然の西倉の告白に、瞬の口からは謎の言語が飛び出した。動揺を取り繕えず、ボボッと顔が火照る。
しまった。これじゃ、瞬の気持ちなど筒抜けになってしまうではないか。
そう思って落ち着こうとするが、西倉の攻撃は止まず、
「先生に会いたいからです。」
ぐぅっ―――と、瞬は息の根を止められた。
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