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第21話 点くのか

禁酒をしていた筈が、瞬はバーに来ていた。 久々のお酒はやはり美味しい。隣に座るのが日吉でなければ、思い切り酔っていただろう。 「ああ、そうだ。佐々原、明日が誕生日だったな。おめでとう。」 「―――ありがとうございます。」 不意打ちにドキリとしたが、それを悟られないように何でもない顔を作って、瞬は礼を言った。平然とできた―――たぶん。 分かっているのかいないのか、瞬を優しげに見返して、日吉はただ穏やかに微笑んでいた。 ―――いい男だな。 日吉は元々イケメンであったが、30を超えて渋みが加わり、また一段とカッコよくなっていた。丸みが無くなり尖った顎に目がいく。そこから首筋までのラインを指で撫でてみたくなる。 「教職、3年目か。慣れてきた頃だな。」 「ええ、まあ。多少は慣れましたが、まだまだ難しいですね。先生はどうですか?」 日吉はここ2年くらい学年主任をしているらしく、あまり生徒と絡む機会がないと、先日不満そうに溢していた。 瞬の問いかけに、日吉が弱ったよう目を細める。その目尻の僅かなシワに、空白の時間の長さを改めて実感した。 「あれだな、生徒と接するより、断然大人の方がややこしいな。」 「あはは、そうでしょうね。」 「佐々原は生徒から好かれていそうだ。」 「どうでしょう。嫌われてはいないみたいですが、先生ほどではないですよ。」 瞬の言葉の意味が伝わらなかったのか、日吉がキョトンとする。ふふっ―――と、瞬は挑発するように目を細めて笑った。 「昔、随分とヤキモキさせられましたよ。」 「はは、知らなかったな。佐々原は、何も言わなかったから。」 「そりゃあ、先生の迷惑にならないように一所懸命でしたし。オレ、健気だったでしょ?」 「佐々原、大人になったな。」 ふぅ―――と、日吉が深く息を吐いてから、軽く頭を下げた。 「あの時は、悪かった。」 「謝らないでくださいよ。あ、奥さんと仲良くしてますか?お子さん、いるんですよね?」 「ひとり娘がいる。妻とは、―――別れた。」 「それは、」 何と言えば良いか分からずに、中途半端に言葉が途切れる。日吉が指輪をしていない事には気付いていたが、まさか離婚しているとは思いもしなかった。完璧に話題を間違えた。 ―――しまったな。 瞬が苦虫を噛み締めたような顔をすると、日吉が穏やかに笑う。 「そんな顔をしなくても大丈夫。円満離婚だ。離婚してからの彼女はイキイキとしていて、たくさん無理をさせていたのだと、やっと気付いてね。楽しそうな様子を見れば、別れて正解だったな、と今は思う。」 もうすっかり蟠りはないのだろう。日吉の顔に陰りはない。 幸せになって欲しいと願っていたので、離婚は残念だったが、口を出せるような事でもない。 瞬が静かにグラスを傾けていると、日吉が頬杖をついた体勢でこちらをじっと見てくる。 その仄かに温度の上がった眼差しに、瞬はギクリとなった。

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