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第23話 嘘つき不在
先日のドタキャンもある為に、瞬はあまり強く拒否できず、結局は西倉を家に上げてしまった。
もう、どうにでもなれ―――と、若干、自暴自棄になっている。
「センスのいいボールペンだな。」
今、西倉からのプレゼントを開けた所なのだが、中身はボールペンだった。
シャープなデザインで、青みがかったシルバーのボールペン。余程良いものなのだろう。実に良く手にフィットする。
「普通に黒と赤のインクもあったけど、青にしました。先生、いつも青のペン使ってるから。」
「意外だね。西倉はあまり文房具とかに興味ないと思ってた。」
これを西倉が選んだという事実が、瞬には驚きだった。
「バレました?幼馴染みが文房具屋で、そいつに相談して。気に入ってくれたみたいで良かった。」
「いや、こんなに高そうなの、貰えないから。」
ニコニコと笑う西倉に、瞬は呆れながらボールペンを箱に戻した。
文具のメーカーに詳しくないので、明記してあるブランド名を知らないが、高校生の1ヶ月分のお小遣いが飛んでいくだろう事は予想がつく。
「格安にしてもらったんで、大丈夫。返されても困るし、使って下さいよ。」
「でも、」
「オレがあげた物、持ってて欲しいんです。」
あぐっ―――と、言葉に詰まる。
本当、勘弁して欲しい。
こんな言葉ひとつで心臓がバカみたいに速くなるなんて。初恋の女子みたいにいちいち反応してたら、西倉にバレてしまうではないか。
―――落ち着け、落ち着け。
なのに、じわじわと頬が熱くなっていく。自制の効かない恋など久しぶり過ぎて、全くついていけない。
「そんな顔して―――」
ぎゅっと瞬が唇を引き結ぶと、西倉が手を伸ばしてきた。そっと壊れ物を扱うように、その指が瞬の頬に触れる。
西倉の触れた場所から、ぶわっ―――と肌が粟立った。
「先生。オレの事、好きになりました?」
「ま、さか。」
絞り出した瞬の声は震えていた。
思わず体を引くと、逃がさないと言うように、西倉に左手を掴まえられた。フルフルと首を横に振る瞬に、西倉が子供でも見るような目をして言う。
「嘘はダメですよ。」
―――うん、もうダメかもしれない。
西倉のせいで、嘘が下手になってしまった。
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