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智也は雨が好き ④

昔からオレは癖毛でツンツンとしていて、外でよく遊ぶせいか日焼けをよくし、小麦色の肌をしていた。 「桃くんは健康的で元気な男の子だね」 智也のおばさん、近所の人からはそうやって褒められていた。 「やーい!桃ちゃーん!!」 「いた…っ。なに…する…の…」 自分の名前を呼ばれたと同時に後頭部に軽い痛みを感じ、そこをさすりながら振り向くと二人の少年がいた。いつも自分を虐める三人組中の二人だと気付き、オレは足を一歩後ろに引く。じゃり…砂と石の音がした。 「お前さ〜、なんで女の名前してんのに男もん着てんだよ!」 「きっしょ!」 「きしょー!」 「だ…だって、オレは男の子だ…もん…!!」 「ん〜、わかんないかな〜??そういうさ、股をモジモジ〜とさせるところなんてマジ女じゃん!!」 言われて自分がそんなポーズになっているのに気付く。ダメだ、男の子なのに。すぐに直して前を向く。 「オレは女の子…じゃ、ないっ!」 もう一度反論する。自分は本当に男として育てられたのだと。 しかし、心の中は霧がかかっていた。誕生日は三月三日。ひな祭りの日。桃の節句の日。世にいう女の子の日であると。 「もしかしてさ〜、男の振りして男に近付きたいの?」 「えっ……?」 「もしくは『カッコイイ』と思われて女からモテたいとか?うわー…変態だ…!」 「変態だ〜」 ショックだった。そんなこと言われたことなんて今まで一度もなかった。 違う。オレは女の子じゃない。智也と同じ男の子だもん。 ……智也と…同じ…。 「違うっ……!!」 「じゃあ、証拠見せてよ」 「えっ?」 「男ならチンコあるだろ?それを見せろよ」 その言葉に一瞬戸惑ってしまう。今は体育の授業中で、みんなテニスをしている。ジャングルジム付近にいるオレたちのことは気付いておらず、先生も職員室に走っていったのをさっき見た。 特にこっちを見るようなクラスメイトは誰もいない。それに一瞬、ズボンを下ろして分かるのならいいのかもしれない。 当時のオレはそんな風に思っていた。二人がオレの下半身に注ぐ視線が怖くて怖くて仕方がなく、ズボンのゴムに恐る恐る手を当てる。 「はーやーく!はーやく!」 揶揄する声が聞こえてきて、焦りが出てくる。 心臓は不規則に動き、耳が熱い。手にも変な汗をかいていた。 「あっ……」 その日は天気予報で「都内初の三十度越え」と伝えられていた。汗ばんだ太ももに手を滑らせ、半ズボンが膝小僧まで下がってしまった。 「あっ…待っ、て…」 ゆっくり下げようとしたのに…。目頭が熱くなってくるのを感じながら、恥ずかしさで中腰になり、腕でパンツを隠す。 耳から聞こえる音がぼわんぼわんとしていた。 恥ずかしい。恥ずかしい。 そんなことばかりに気を取られていたからだろう。いつも三人組である彼らがなぜ、今日は二人なのか。ニヤニヤしながら上を見ているのか。全く考えることも出来なかった。 「やれーー!!」 合図と共にサーという音が頭の上から降ってきた。いや、頭から水が降ってきたのだ。 「うわあ〜!!水掛けられてやんの〜!!」 ジャングルジムのてっぺんから降ってきたそれは、まるで雨みたいだった。少し痛くて強い雨。鼻や目を覆うのに遅れ、入ってきた。 苦しくて咳き込む。 「えほっ…、けっ…ほ…!!」 何度もごしごし手で拭うが、腕も濡れているので意味は無かった。 「うわ、やっべ!!乳首が見えてるぞ!」 「しかも乳首勃ってる!」 え、嘘…だ。恥ずかしくて慌てて腕で胸を隠すが、今度は「下も勃っている」と嗤う声が聞こえてくる。 嫌だ…。嫌だ。もう、自分なんてもう嫌だ…!! その場で消えてしまいたいと思っていたその時、遠くから聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた。 「桃くんをいじめるなあ〜!!」

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