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智也は雨が好き ⑤

1205室の扉を開けると智也はベッドから離れ、顔を伏せて座り込んでいた。耳をすませると智也の泣き声が聞こえてくる。綺麗に拭き取ったはずのそこに丸まっている姿はまるで何かに謝っているようにも見えた。 「智也」 呼び掛けると今度はすぐに反応してくれた。彼が顔を上げると泣き腫らしたのか目は赤くなっていた。白い肌によく映える。まるで雪山の兎だ。でも、きっと智也は知らない。智也の目線がオレを捉えた時、どれほど嬉しかったかを。 「桃くん…さっきは……」 彼の視線がまた下を向き、ウロウロさせていた。 「ごめんなさい…だよね?」 「……っ、ごめんなさい」 「うん。いいよ」 謝罪を促すように言うとベージュの髪がふわりと下を向いた。 『それから…、いつも智也と一緒に居てくれてありがとう。本当はこんなこと言っちゃいけないんだろうけど、これからももし良かったら仲良くしてやって頂戴ね』 先ほどのおばさんの言葉が繰り返される。 しかし、少し申し訳無さそうな顔をしながらも、どこか安心したような顔をしていた。 おばさん、全然迷惑じゃないよ。 オレは智也の傍にいたいからいるんだ。 オレが智也と一緒にするために出来ること…。 「智也」 声を掛けただけなのに智也は体をビクリとさせていた。別に怖がらせようと思ったわけではないが、ここはあえて何も言わない方がいいかもしれないと思い、続ける。 「智也に聞いて欲しいことがあって来たんだ」 「な…、に…?」 怯えながら質問してくる。最悪なことでも浮かんだろうか。ブラウン色の綺麗な瞳に大粒の涙が浮かぶ。どんなに辛くてもオレの前では見せないその姿を見せられ、覚悟を決めた。 制服のポケットから四つ折りにした便箋を取り出す。 先ほど、おばさんからペンを借りて書いたものだった。 オレが一歩進むと、智也はさらに怖がってベッドに近付く。 それでも良かった。 「その一、智也と一緒に出掛けたい」 口から出た言葉はきっと智也の思っていることと違ったんだろう。 え?という目をこちらに向けていた。 智也と一緒に遊園地とか映画とかに行きたいな。有名なキャラのグッズを買って作品と一緒に楽しみたい。 「その二。智也と一緒に勉強会がしたい」 特に理由は言わないから、智也は疑問だったんだろう。オレが一歩近付く度、彼も一歩こちらへと進んできた。 高校生になってからとにかく大変だ。勉強とかテストとか。中学生の時よりも難しい。今度ある学期末テスト…智也ならトップを取れそうだ。 「その三、智也と一緒にお菓子作りがしたい」 オレはサッカー部を辞めて調理部に来た。理由はそれなりにあったけど、今は言わない。 不器用だし、覚えが悪いから作れる品は少ない。でも、簡単なホットケーキから一緒に作りたい。彼が好きな桃缶を使ったお菓子を作りたい。 オレが二歩進むと、智也は三歩進んできた。 「その四、智也と一緒にまた、お泊まり会がしたい」 四つ目のオレの願いを聞き、智也の目が大きく開かれたのが分かった。 オレにとっても智也にとっても小さい頃の懐かしい思い出だ。 「その……五、」 五番目の願い。某映画では三つまでだからさすがに多いかな?なんて思ったけど、五番目が一番大切だ。 なのに、目頭が熱くなって読めない。 でも、言わなきゃ。 オレは智也とこれからも一緒にいたいから。 「とも…智也に…病気…治して…ほし…っ、い…!!」

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