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第20話
光の家から駅前までは、歩いて20分程度。
何もない最寄り駅から電車に乗れば、10分も掛からず到着するのだが。時間を潰さなければならない俺たちは、駅までの道のりをフラフラと歩いていた。
「せいにお土産、何がいいか聞こうと思ったのに……きっと、疲れちゃったんだね。朝から緊張して高校行ったし、制服のままベッドで寝ちゃってた」
家を出る前に、光は星に出掛けてくると伝えようとしたみたいだが、星は爆睡していたらしい。
高校生活初日の帰宅、しかも自室に不審者らしい俺がいたワケで。初体験だったらしいキスを見ず知らずの俺に奪われ、それから訳の分からない契約を結んだら。
それは疲れてしまっても無理はないことだし、むしろ自然なことだと思うけれど。
「お前の弟って、星くんだろ?この間まで中坊じゃなかったっけ、他人の家の子の成長は早ぇーな」
……ホントは知ってるってか、俺は今日その星くんに会ってんだけど。光から星の情報を聞き出すために、俺はわざと聞いてみた。
「そうだよー、あんなに可愛いせいがもう高校生。制服姿もとっても可愛くてね、調理学科だからコックコートっていうのもこれから着るようになるんだって」
光は、可愛い弟に好かれていることを自覚しているのだろう。相変わらず、星の話になるとペラペラと話す光のトークは止まらない。
「せいは恥ずかしがり屋だから、制服姿が可愛いって褒めたら真っ赤な顔するの。朝からお兄さんは、せいを抱きしめて満足だった。さっきの寝顔もすっごく可愛かったからね、隠し撮りしてきちゃった」
そう言いながら光は、スマホの画面を俺に見せつける。そこには、あどけない表情で眠っている星の写真があった。
「……お前、どんだけ弟好きなんだよ」
口ではそう言いつつ、俺はその写真を見つめて。あとで星に、お前の写真を俺に送るようにってLINEを送っておこうと思った。
「……せいは、本当に可愛いから。俺のことを一番に考えてくれるし。たぶんせいは俺のこと、すごく好きでいてくれてると思う。だから俺も、せいにはちゃんとお兄さんらしくしていたいんだ」
「お兄さんらしく、ねぇ……」
「せいはね、お兄さんな俺が好きなんだよ。お前みたいに、俺に優しくしてもらえない人間が存在すること、あの子は知らないから」
誰にでも、知られたくないことの一つやニつはあるものだ。弟の星には優しくしていても、普段の光は優しさの欠片もない男だから。
「そんな兄貴に大事にされてんなら、星くんは幸せものだな」
けれど、俺の言葉に光は妖しい笑みを浮かべた。
「当たり前でしょ。俺、王子様だよ?」
……王子様って、普通自分で言わねぇーよ。
広く浅い付き合いを好むこの男、周りから見れば確かにコイツは王子様のように見えるのだろうが。昔からコロコロと変わる光の態度や表情に、俺は未だに振り回されてばかりいて。
蝶の鱗粉のようにキラキラ輝くオーラを放出している男の隣に並び、俺はかったるく思いながら目的地まで歩いていった。
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