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第121話
「なんで、どうしてなんだよッ……セイもアンタと同じことを俺に言ったんだ、俺には関係ないって」
「それさ、もうちょい詳しく話せるか?」
ここまでの流れは、想定の範囲内で収まっていた話だったけれど。弘樹の呟きから背景を読み取ることが困難な気がした俺は、弘樹に問い掛けた。
「今日たまたま学校内で、保健室に向かう途中のセイと会って。ラッキーなことに二人きりになれたから、セイを問い詰めたんだ。そしたら、あのとき一緒にいたのはアンタで間違いないって言われて」
「そんで?」
「ただ、アンタはセイの兄ちゃんの友達だから、お勧めのカフェに連れてってもらったんだって言ってた。でも、それでキスマ付けられんのはおかしいだろって話したら、セイのヤツ、俺には関係ないって言ったんッスよ」
なんの躊躇いもなく、ペラペラと話してくれた弘樹には感謝してやろう。何故アイツが保健室に用があったのかは謎のままだが、なんとなく二人の会話の流れを掴むことができた。
しかしながら、星が弘樹に説明した俺の情報は当たり障りのない話。弘樹が知りたがっている肝心な部分は、星も俺と同様に伏せていたわけで。
「なんでキスマ付けられたのか訊いたときも、セイは知らないって言うだけだった。言えない事情があるのか、アンタを庇ってんのかは知らねぇけどさ……セイに訊いても納得できない答えしか返ってこねぇから、だから俺は今日アンタに会いに来たってのに」
「直接話に来たら、目撃してた事実を告げたら、俺が怯むとでも思ったか。そんな浅知恵だけで来たんじゃ、答えてはやれねぇーな」
星にその気がないのなら、あの仔猫に何を訊いても無駄だ。無駄だと判断した上で、弘樹は俺に話をしに来たことは納得してやるけれど。
「俺は、セイと幼稚園から一緒だ。ずっとセイを見てきたはず……なのに、なんでアンタみたいなのが急に出てきて、セイがキスマ付けられてんのか知りたい」
「知ってどうすんだ、お前」
俺と星の関係を弘樹がどのように扱うつもりでいるのかは、俺にもまだ理解できていないから。俺が灰皿に煙草を押し付けつつ尋ねると、弘樹は少し声を荒らげてこう言った。
「俺は今日、セイに、アイツに男として好きだって伝えてきた。好きな相手のことだから、俺にだって知る権利くらいはあんだよッ!!」
「答えになってねぇーよ、権利云々の話じゃねぇーんだ。知ってどうすんのかって聞いてんの……ってかさ、お前アイツにナニした?」
好きだから知りたい、その気持ちは理解してやるとしてもだ。恋愛感情を持つ相手と保健室で二人きりの状況はコイツにとって好都合だったのではないか、と……そう思い、俺が弘樹に問い掛けた瞬間、目の前にいるガキが男の顔をして笑った。
「キスマ付いてた首筋に触れて、保健室のベッドに押し倒しただけッスよ。恥ずかしそうに染まる頬も、少しだけ漏れた吐息もすげぇ可愛いかったなぁ……まぁ、アンタには関係のない話だけど」
……このクソガキ、ガッツリやってんじゃねぇーか。
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