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第146話

泡が完全に消えた時。 ソレは、俺たち二人が仲睦まじく遊んでいたコトを意味していた。といっても、狭いバスルームで初体験の全てを終わらせたワケではない。 恥じらいを魅せながらも、快楽に従順だった星。俺の理性が吹っ飛びそうな星の姿を目の当たりし、欲ばかりが溢れていたけれど。 お互いに、まだはっきりと気持ちを伝えていない状況では色々と踏ん切りがつかなくて。 というより、湿度の高いバスルームで遊びすぎたせいか……一度イッただけでクタクタになってしまった星に、俺はこれ以上負担をかけることができなかった。 早る気持ちをなんとか抑え、煩悩共々も一緒くたに洗い流して。イッたばかりの星のカラダを抱きしめてやると、星は肩で息をしながらもふわりと微笑んでくる。 きっと、コレは誰も知らない星の姿だ。 本人からすれば、決してキレイとは言えない顔なんだろうと思うけれど。涙や唾液で濡れた跡が残る肌に、真っ赤に色づいた唇。 前回はこの表情を隠して見せてはくれなかったが、俺からすればあまりにも愛おしい乱れたあとの姿だった。 微笑む星を強く抱きしめ、俺は溢れ出す感情を受け入れていく。 愛しすぎて。 切なくて、苦しくて、離したくない。 だから俺は、この瞬間。 ……はじめて、心から思ったのだ。 繋がりたい、ひとつになれたらと。 ただ、どうしようもなく。 俺が、抱き潰したい衝動に駆られても。 今日はなんとか優秀な理性が働いてくれたため、思い留まることができた。 だが、正直なところ。 俺の理性が、いつまでもつかは分からない。 そんな俺の気持ちを知らない星は今、風呂上がりの柔らかなカラダでベッドに横たわっている。今すぐにでも眠りに就きそうな仔猫は、ぬいぐるみを抱きしめてこう呟いた。 「白石さん、あのね……弘樹がねぇ、キスマークは独占欲がなんちゃらかんちゃら……言ってた、です」 「なんちゃらかんちゃらって、なんだ?」 「オレもね、白石さんに、そんな痕つけたぃ、なぁ……って」 俺の首筋には、キスマークなんて可愛らしいものではない、星の歯型がくっきりと残っているんだが。俺の問いかけには応えず、星は話しながらゆっくりと目を閉じていく。 バスルームでの遊戯の最中、声を殺そうと必死だった星に俺が噛ませた首筋。明日起きたら、星は俺につけた痕を見てどんな顔をするんだろうか。 「白石さ、いっぱぃ……」 「……星?」 しっかりと閉じた瞼に、一定の呼吸音。 完全に眠りに就いた星を、俺は起こそうとは思わなかった。今日はもう、ゆっくり眠らせてやろうと。 そう決めた俺は、星の額に口付ける。 ランからの電話がなければ、星のくしゃみが遮らなければ。とっくに伝えられていたハズの言葉を、俺は眠る星にそっと呟いて。 「星、好きだ」 すぐそばにいるのに届かない想いは、部屋の中を漂い消えていったのだった。

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