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第152話
【雪夜side】
……いてぇ。
星に噛まれ、爪を立られた俺のカラダは傷まるけだ。なんだかんだで他の部分は遠慮があったが、戯れた最中に噛まれた首筋だけは、今もヒリヒリと痛みが強く残っている。
そんな身体で星を家まで送り届けて、俺は一人寂しくバイト先へと向かっている。
過去の話をしろと星に言われ、話す度に嫉妬してカプカプと俺に噛みつく星はすげぇー可愛かった。星の愛情表現の一つだと思えば噛まれる痛みくらい、なんとでもなるのだが。
痛みを感じつつも、思い出すと頬が自然と緩んでしまう。星と離れて感情を取り除かれた単純な性的欲求が、俺を襲い始めていることに気づくと溜め息が漏れた。
……落ち着け、俺。
そうこうしてバイト先のショップに着くと、今日はフル勤の康介がスタッフルームで休憩していたが。俺が羽織っていたジャケットを脱いだ瞬間、康介が大声で叫んで。
「白石っ!! お前昨日どんだけ激しく女とヤってきたんだよ! 首っ、それショップのパーカーでギリ隠れるくらいじゃね?ヤバくね?」
「別にヤバくねぇーし、激しくもねぇーよ」
「いやいや、白石意味わかんねぇ……そんな痕ついてんのに、健全なわけねぇだろ。てかお前、付き合ってる女いんの?」
「俺、今から仕事だから」
「あ、ちょっと白石っ!!帰り絶対教えろよっ!!」
「うるせぇー、変態」
一連のやり取りで適当にあしらい、詳細を語らずとも済むように俺はバイトに集中したのだが。
結局、俺はバイトを終えた直後にうるさい康介に捕まってしまった。仕方なく、本当に仕方なく、夜メシを奢ってくれるならと条件を出したものの。連れられてきたのは、康介御用達のファミレスだった。
思いの外空いている店内で、案内された四名用の席に二人で着く。とりあえずお互いにメニューを広げ、俺は唸る康介を見る。
「なぁ、ステーキ食っていい?」
いくら奢りと言えど、多少気を遣い……いや、却下されることを解っていて俺はそう問い掛けた。
「はぁ、お前ふざけんなっ!!ドリンクバー含めて、千円までに抑えろよっ!!」
「お前、そんなんだから女にモテねぇーんだよ」
金欠の康介をからかい、相変わらずな康介の反応を楽しんだあと。俺も康介も注文した品は、ドリンクバーとドリアだった。
とりあえずくだらない話をしながら腹ごしらえをし、食後の一服をしている俺に康介はしみじみ話し始める。
「お前にそんな痕付けていい女が現れるとはなぁ……初めてみるわ、お前にそんな痕付いてるところ。白石って、ヤっても絶対相手にそういう痕付けさせねぇじゃん?」
「そりゃあ、ただヤるだけの関係でそんな独占欲出されても困るからな。俺は、誰のモノでもねぇーし」
「今はどう考えても、白石はその痕付けた女のモノだろ?」
女、ではないが。
妙に考えさせられる康介からの一言に俺は応えず、ゆったりと煙草の煙を吐いていく。
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