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第156話

「星、落ち着いて。俺はお前を責めてるワケじゃねぇーよ……今、たぶん弘樹が女たち相手にしてくれてるはずだから、大丈夫だ」 『オレ、びっくりしちゃって……あんなにいっぱい話しかけられて、たまたま弘樹が通りかかってくれて。白石さんの声……聞けて、安心して……』 少しずつ、ゆっくり話してくれる星。 俺が側にいられたら、抱きしめて安心させてやることができるのに。今はソレすら叶わない願いなことが、なんとも心苦しいけれど。 「星、大丈夫だから。話してくれてありがとな、髪はちゃんと戻したか?」 『えっと、うん……あの、白石さん?』 「ん、どーした?」 どうやら、星は涙が出る一歩手前で平常心を取り戻せたらしい。その証拠に、星の声色が先程より柔らかくなっていく。 『今日って、もしかしたら、もしかして……夜に、会えたりしますか?』 「もちろん。21時過ぎには迎えに行けると思うから、いい子にして待っとけ」 『……オレ、いい子にしてます』 照れた顔で微笑む表情が目の前に浮かんでくるくらいに、電話越しでも星は可愛い反応をする。 ……この可愛さ、他人に知られたくねぇーな。 もうすでに知ってしまった女連中がいることは、避けられない事実なんだが。星の助けに入った弘樹の爽やかさに掻き消されて、星の存在が有耶無耶になればいいとさえ俺は思ってしまうのだった。 だからなのかもしれない。 芽生えた独占欲をむしり取るように、俺は言葉を紡ぐ。 「星、愛してる」 『あ……あの、オレも好き、です』 触れ合って伝えられない想いは、言葉にすればいい。今日の夜、会えるそのときまでお互いが乗り切れればそれでいいから。 そうは思ったものの、恥ずかしそうな星との穏やかな沈黙が心地よくて。できればこのまま通話を続けていたいところではあるが、互いに学びの場にいる以上、そうも言っていられなかった。 「星くん、そろそろ弘樹んところに戻ってやりな。コレ、アイツのスマホだろ?」 なんとも名残惜しい感情を抱えつつも、俺は通話終了の合図をしてしまう。そうでないと、星は永遠に弘樹のスマホで俺と通話していそうな雰囲気だったのだ。 『あ……はい、白石さん……ありがとうございました……それじゃあ、また』 「ん、またな」 案の定、寂しそうな声で別れの挨拶をした星。星の気持ちを現すように、一向に鳴らない機械音。俺から切るしか選択肢がない通話、後ろ髪を引かれる思いとはまさにこのことだった。 「……アイツ、本当に大丈夫か?」 今回は弘樹がいたから良かったが、毎回助けが入るとは限らない。ボソリと独り言を呟き、俺は新しい煙草に火をつけた。 フィルター内にあるカプセルをカチッと歯で噛んで、ゆったりと息を吸う。 午後からの講義がより一層面倒に感じ、脱力しそうになるけれど。 今日の夜、星に会えたらたっぷり可愛がってやろうと心に決めた俺は、くだらない教授の話を聞くために中庭から講義室へと移動した。

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