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第157話
【星side】
いつもなら、美味しくお弁当を食べているはずの昼休み中。オレは色々あって、弘樹のスマホで白石さんと通話した。
……白石さんの声、聞けて良かった。
まだ着替えることのできていないコックコート、ハネた前髪。気にしなきゃいけないことは山ほどあるのに、普段と違うイレギュラーな状況にオレの心は戸惑うばかりだ。
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分。
白石さんから伝えられた言葉を思い出し、オレは気持ちを落ち着かせるために深呼吸する。
「よし、頑張ろう」
弘樹を置き去りにし、一時はときが止まったように感じたけれど。オレはまだ昼食も摂れていないし、着替えなきゃならないし……それから、弘樹にスマホを返さなきゃならないから。
刻一刻と過ぎていく昼休憩の時間を取り戻すように、オレは左手で前髪を押さえつつ右手に弘樹のスマホを持って弘樹の元へと駆けていった。
たくさんの生徒の合間をすり抜け、オレが弘樹と遭遇した場所の近くまで来たとき。オレを囲っていた女の子たちが、今度は弘樹を囲って賑やかに話している様子が窺えて。
弘樹の頼もしさに感謝しながらも、オレは弘樹と距離を取って足を止めた。これじゃあ、スマホを返したくても返せない。
それに、もうとっくに授業時間は過ぎたのにコックコートを着て彷徨いているのは気が引ける。目立つ装いはなるべく控え、オレはとりあえず教室へ戻って着替えることを優先した。
教室に戻ると、可愛らしいお弁当を食べていた西野君が心配そうにオレを見た。
「あ、青月くんやっと戻ってきた。一緒にお昼食べようと思って待ってたんだけど、なかなか戻って来ないから先に食べちゃった」
「待っててくれたんだね、遅くなってごめんなさい。色んなことがあって、なかなか教室まで戻ってこれなくて」
西野君に謝りながら、オレは着替えを済ませていく。
「ううん、気にしないで。それより横島先生なんだって?やっぱり髪、切らなきゃ駄目って言われた?」
白石さんには、言えなかったけれど。
オレが職員室へと呼ばれた理由を、西野君は知っている。前髪が長すぎるから、来週までに切ってくるよう厳重注意を受けたんだ。
実習中だけはちゃんとピンで留めるからって、必死で先生と交渉したけど無駄な努力だった。
オレはそれがショックで、帽子を被るのも忘れトボトボ廊下を歩いていたとき。知らない女子生徒数人に、可愛いと声をかけられて。
そのあとは、白石さんにも話した通り。
「……切らなきゃダメ、みたいです。調理学科は、衛生面に気を配れなきゃ調理師にはなれないって。来週までに切ってこなかったら、俺がお前の髪切るからなって机の上のハサミ持って言われました」
「うわぁー、横島先生ホント怖いんだね。女子生徒には一番人気の先生みたいだけど」
「え、そうなんですか?」
西野君はモグモグとお弁当を食べていたけど、急に真っ赤になって横島先生のことについて話し出した。
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