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第158話
「横島先生って普段ジャージでダサ目だけど、コックコート着て料理人モードに入るときの姿がすっごいカッコ良いって、調理学科以外の女子生徒からも人気なんだって。体験入学のとき、僕たまたま横島先生の授業でね、本当にすっごくカッコよかった!」
西野君の瞳はキラキラと輝いていて、まるで恋する乙女のよう。オレよりも遥かに可愛らしい西野君の容姿をまじまじと見つめながら、オレはようやく食べることのできる昼食を頬ばっていく。
「僕ね、横島先生の授業をもう一度受けたくて、この高校に進学したんだよ」
西野君の志しは、すごく素敵だと思う。
思うけれど、オレは西野君のような気持ちにはとてもじゃないけどなれなかった。
「でも、すごく怖かったです」
先生が目の前でハサミを持ったときは、そのまま職員室で髪を切られてしまうのかと思った。
「調理学科の先生だから、身だしなみにはすごい厳しいんだって。ちゃんとした料理人になってほしいから、横島先生は入学したら厳しく言ってくると思うけど、とっても良い先生だよって……体験入学のときにいた先輩が、僕に教えてくれたよ?」
「……そう、だったんだ」
ちゃんとした、料理人。
その言葉に、オレの頭の片隅にひょっこりと現れたのはランさんの姿だった。
とても美味しいランさんの料理の数々に感動したし、ランさん自身も素敵な人だったけど。
……ランさんは、長髪じゃなかったっけ。
そんなことを考えていると、勢いよく教室のドアが開いて。
「ハァー、いたっ!!セイ、スマホっ!! 俺のスマホあるッ?!」
クラス中の視線を一斉に浴びた弘樹は、肩で息をしながらオレのところまでわざわざスマホ取りに来てくれた。
「あ、ごめんっ!オレが持ってる」
その様子を傍で見ていた西野君は、不思議な顔をしてオレを見る。
「……青月くんって、普通に話せるんだね」
「えっ……あ、うん。オレ人見知り激しくて、慣れるまで時間かかっちゃうけど、弘樹は幼なじみだから大丈夫なんだと思う」
「俺らさ、幼稚園からの仲なんだ……ってか、もしかしてキミが西野くん?セイもかわっ……いや、キレイな顔してるけど、キミ女の子みたいな顔してるね」
西野君との会話中、オレの元までスマホを取りに来た弘樹は勝手に喋り始めてしまう。オレはそんな弘樹にスマホを手渡すと、西野君に視線を移す。
「僕、そんなに女子っぽいかな……えっと、弘樹くん、だっけ?」
照れ笑いしながらも、弘樹の名前を確かめるように尋ねた西野君。その後、西野君と弘樹の二人は軽く自己紹介をしていたけれど。
昼休憩中、オレの都合に合わせて動き回っていた弘樹が食事を摂っていないことにオレも弘樹も気がついて。
大きく響き渡る弘樹のお腹の音とともに、午後の授業を知らせる予鈴が鳴ったんだ。
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