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第164話
……俺は、そう思ったんだが。
「……んっ、あの、白石さんは……頭が、おかしいです。オレ、ダメって言ったのに」
片腕で顔を隠したまま、イッたばかりの星はボソボソと呟いて。言いたいことを理解した俺は、わざとな意地悪に問い掛けていく。
「口でされんの、気持ち良くなかった?」
「……ッ、それは」
口籠った星の反応に、思わず笑みが漏れた。欲の味を口内で受け止め飲み干した俺は、星から答えを聞かずとも、良かったことくらい分かっているけれど。
「すげぇー良さそうに、乱れてた気がすんだけど……まぁ、お前がイヤって言うんならもう二度としねぇーよ」
俺はそう伝えつつ、星の身体をキレイに整えてやる。すると、星は俺の枕に顔を埋めながらも、自分の気持ちを伝えようとしていて。
「あ、えっと……そうじゃない、です。あの、すっごく気持ち良くて、オレ……でも、白石さんにあんなコトさせるのは申し訳なくって」
口淫なんてもんは、どちかと言えば一般的な部類だろうが。普段の生活で考えれば、躊躇いもなく性器を口に含むのは如何なモノかと思われて当然だと思った。
セックスには、さまざまな行為が存在することを星はまだ知らない。本当に頭がおかしいんじゃないかと思うようなプレイだって、この世には存在する。
しかし、それが条件次第で情がなくても可能な行為だと捉える人間もいるだろう。ただ、星にはしっかり俺なりの愛情表現だと伝えておくべきだと思った。
「俺は、星が気持ち良くなってくれんなら……好きな相手になら、なんだってできんだよ。それに、俺の頭がおかしいことはお前も知ってんだろ」
「……白石さん」
「だから、お前が申し訳なく思う必要はねぇーの。その代わりに、俺を感じてくれればそんで充分」
本当は、この先まで繋がりたい。
そんな想いを直隠しつつ、俺はベッドに腰掛け煙草に火を点ける。理性が吹っ飛ぶその前に、落ち着きを取り戻せるように。
こんなにも愛らしく意地らしい反応をされ、続きを望まない男は少ないだろう。とっくに限界を超えている衝動を無理矢理にでも抑え込み、星を大事にしてやりたいと思う一心で煙を吸い込んでいく。
すると、俺の腰に星の細い腕が回って。
「ん、どーした?」
モゾモゾと動く仔猫のような星は、回した手に力を込めると小さな声でこう言ったのだ。
「……白石さん、大好き」
どうやら、俺の気持ちが星には届いたらしい。顔を見せてはくれないものの、甘え切った様子で俺に抱きついている星くん。
「星、愛してる」
いつまでも、こんな時間が続けばいい。
尊い、なんて……星といると、使い慣れていない言葉ばかりが浮かんでくるから気恥ずかしく思う。この余裕のなさをなるべく悟られぬよう、俺は星の艶やかな髪に指を絡ませていく。
痛いくらいに張り詰めた欲の象徴、その熱が冷めるまで。穏やかな感情を抱きながら、俺はゆったりと煙草を吸っていた。
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