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第165話
翌朝。
今日の午後、光に会うためランの店に行かなきゃならない俺達は、二人きりの時間を噛みしめるかのようにのんびりと過ごしている。
朝食と呼べるであろうギリギリの時間に、朝メシを済ませて。星が好きな甘ったるいカフェオレを淹れてやり、俺は星と並んでソファーに座った。
「オレね、白石さんが淹れてくれるカフェオレが一番好きなんです」
ふふっと嬉しそうに笑って、美味そうにカフェオレを飲みながら星はステラを抱いている。
「お前が好きなら良いけど、俺はブラックじゃねぇーと無理だ。甘い飲み物って、飲んだ気しねぇーから」
「白石さんって、見るからに甘いの好きじゃなさそうですもんね……でも、甘いの苦手なのにどうして家にココアがあるんですか?」
甘党じゃなければ、俺はコーヒー以外口にしてはならないのか、と。そう思いながらも、俺は星の疑問に応えてやる。
「あー、たまにカフェモカ飲みたくなるからそのために。コーヒーよりココアの方が、身体が温まるのが早いからな」
毎回飲むわけではないものの、ココアは寒さが厳しいときの必須アイテム。ココアに含まれるテオブロミンが作用し、血液循環が促進されるらしい。
「ココアって、そんな効果があるんですね。オレ、知らなかったです。でも、カフェモカってココアが入るんですか?」
頭にクエスチョンマークを浮かべている様子の星は、俺にそう問い掛けた。
「本来はエスプレッソコーヒーとミルク、あとチョコレートシロップで作るんだけど……そんだとお前には甘過ぎるからって、マスターが教えてくれたんだよ」
「んー、どっちも美味しそうです!」
目を輝かせてステラを抱えている星くんだが、コイツが今飲んでいるのはカフェオレだから。
「今度、また作ってやるよ。お前は甘い方が好みだから、次の泊まりまでにチョコレートシロップも買っとくな」
「嬉しいっ、ありがとうございます!」
単純に、俺の体温を上げる効果を期待して常備していたココアだが。今後は星のために、色々と買い揃えてやろうと思った。
この先、俺の隣にコイツがいてくれるのなら。ココアよりも、何よりも、星は俺を温かくしてくれるだろうから。
「寒い季節に飲むココアって、なんだかホッとしますよね。でも、白石さんが寒がりで、その上ココアって、なんか可愛いかもです」
……ココアが可愛い、意味わかんねぇー。
そう思いつつも苦笑いし、俺は煙草を咥えて火を点つける。
「可愛いのは、お前だろ」
ふわふわと笑う星の頭を撫でてやると、俺と同じシャンプーの香りが鼻を掠めていく。ほんの僅かなことだけれど、ソレだけで満たされる感覚は悪いもんじゃない。
ただ、俺は今日この愛らしい仔猫を悪魔の前に差し出さなければならないと思うと、自然と溜め息が漏れてしまう。
「あ、白石さん……あの、今日の予定なんですけど、白石さんとランさんが迷惑じゃなければ、少し早めにお店に向かうことって可能ですか?」
星からの申し出を、俺は快く了承したけれど。
そこに含まれていた星の悩みに、この時の俺は気づくことができずにいた。
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