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第172話
「星、ちゃんと側にいるから大丈夫だ……で、ゴールデンウィークの話はどうなってんだよ?」
寂しさに気づいてくれた白石さんはそう言って、煙草を取り出し火を点けると、オレにジッポを手渡してくれた。
オレの心を落ち着かせるように、そして向かいの二人からは気を外らせるように。渡されたシルバーのジッポは、オレが思っていた以上に重厚感があった。
白石さんからの問い掛けで、ここに集まった目的の一つ、ゴールデンウィークのお泊まりの話が始まって。
「俺と優はいつでもいいから、日にちはユキちゃんに合わせようかなって。運転、ユキちゃんだし」
両手でジッポを掬うように持っているオレは、本当に白石さんが運転するんだって驚いた。
「ここから下道で3時間くらい、高速だとその半分くらいで着く場所にある、二階建ての一軒家だ。近くに温泉もあるが……今後、ゲストハウスとして宿になる予定だから、俺たちは謂わば実験台だ」
優さんがそう言うと、兄ちゃんは隣でうんうんと頷いていた。
「星がそれでいいなら、俺は構わねぇーよ」
「えっと、オレは全然大丈夫です。でも、オレも一緒にいて迷惑じゃないですか?」
話を振られて、オレは頷いた。
けれど、やっぱりオレがこの場にいる違和感は拭えなくて。オレがそう尋ねると、兄ちゃんはぶんぶんと首を左右に振ったんだ。
「全然っ、迷惑なんかじゃないよ!せいがいるからユキちゃんが運転してくれるんだし、せいは俺の弟なんだから優に遠慮することなんかないんだよ?」
そう言った兄ちゃんの隣で、今度は優さんがうんうんと深く頷いてる。
………優さんがいいなら、いいのかな?
オレがそう感じ、安堵したのも束の間で。
「ねぇ、海行きたい!海!!」
はしゃぎだした兄ちゃんは、優さんを見てキラキラした瞳を向けている。でも、優さんは小さく溜め息を吐くと眼鏡を整えた。
「光……何度も言うが、あの海は遊泳禁止だ。行くのはいいが、絶対に泳ぐな」
「でも、砂丘あるんでしょ?なら、みんなで色々遊べるじゃん。砂丘の近くに、芝の公園もあるんだって。せいっ、楽しみだね!」
「う、うん」
白石さんと一緒にいられるなら、正直オレはどこでも嬉しいから。兄ちゃんの言葉にオレが頷くと、オレの隣で煙草を吸っていた白石さんがふわりと笑う。
「星が楽しみなら、俺も楽しみ」
オレが好きな微笑みをくれた白石さんは、優しく頭を撫でてくれる。そんなオレと白石さんのやり取りを見ていた兄ちゃんは、優さんに笑い掛けるとこう言ったんだ。
「優、俺にもユキちゃんと同じコト言って?」
「……光が楽しみなら、俺も楽しみだ」
「うん、優はやっぱり面白いね」
「光、お前が優に言わせたんじゃねぇーかよ。優も平気な面して、しかも真顔で言うな」
「光に言えと言われたからな、実行したまでだ」
兄ちゃんに、よしよしと頭を撫でられてる優さんだけど、クールな表情は変わらないまま。
優さんはもしかすると、白石さんとはまた違う意味ですごい人なんじゃないかなって……オレはそう思いつつも、楽しそうな兄ちゃんの姿を眺めていた。
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