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第173話
「ハーイ、かんぱーいッ!!」
白石さんはレモンペリエ、兄ちゃんはマイタイっていうトロピカルカクテル、優さんは烏龍茶、オレはランさんが特別に作ってくれたミルクたっぷりのミックスジュースで乾杯する。
テーブルの上にはそれぞれのドリンクと、たくさんの料理が並んでいて。ゴールデンウィークの大まかな予定が決まったころ、美味しそうな品の数々をランさんが運んできてくれたから。
オレはもう、目の前の料理に心惹かれているんだけれど。四人でグラスを合わせて乾杯したあと、各々がドリンクに口付ける。
そして。
「美味しい!このジュース、とっても甘くて美味しいです」
口いっぱいに広がるフルーツの甘さと、少しの酸味。その二つをマイルドに仕上げるのは、濃厚で優しいミルクだった。
その美味しさを伝えたくて、オレは緩んだ頬を更に緩ませていく。そんなオレの姿を茶化すことなく、白石さんは温かい微笑みで返してくれたけれど。
「光だけ飲めるとかうぜぇーな。普通、俺らに合わせて飲まねぇーだろ。星もいるし」
年齢的に、白石さんもオレと同じで本当ならまだ飲めないんじゃないかなって。オレはそう思ったけれど、この人にそんなことを言っても通用しないことは覚えたから。
オレが黙ってジュースと仲良くしていると、名指しされた兄ちゃんが口を開いた。
「優とユキちゃんは運転手だし、せいは未成年だから仕方ないよね。でも、俺がユキちゃんたちに合わせる必要はこれっぽっちもないから。ねぇ、優もそう思うでしょ?」
「光、とりあえず食べなさい。ランさんが光のために、わざわざ皿を分けて用意してくれてあるんだから」
さりげなく兄ちゃんの言葉を無視した優さんは、テーブルの上の小皿に手を伸ばす。優さんに意識を逸らされた兄ちゃんは、大人しく小皿の中の物を頬張って。
「んー、やっぱりこの味クセになる。せいも食べてみる?コレね、とーっても美味しいから」
そう言われて、兄ちゃんから差し出されたのは薄いハムを乾燥させたような物。
「旨いけど、ミックスジュースに合う味じゃねぇーだろ……って、もう食ってるし」
白石さんが呟く前に、オレは得体の知れない食材をぱくっと口に入れていた。噛めば噛むほど、お肉の味がじゅわっと口いっぱいに広がっていく。
「白石さんっ、これとっても美味しいです!なんでしょう、わかんないけど美味しい!」
「ソレ、ポークジャーキーな。ビーフより口当たり滑らかで、味はしっかりしてるからランの店のジャーキーはビーフじゃなくてポークなんだよ」
オレの問いに、しっかりと応えてくれる白石さん。オレには聞き慣れない食材名だったけれど、新しい発見ができて嬉しく思うんだ。
「ジャーキーって、ビーフだけじゃないんですね。オレ、ビーフよりもポークのほうが好みです」
ランチタイムとは異なる料理の数々と、アルコールの香りがほんのり漂う室内。ちょっぴり大人な雰囲気の中で過ごす今は、オレにとって貴重な時間だ。
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