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第174話

「おつまみ系の食べ物が好きなら、星君も光と一緒で酒豪かもしれない」 兄弟揃ってポークジャーキーを頬張っているオレと兄ちゃんを見比べて、そう呟いたのは優さんだった。 「あー、確かに。星も、もしかしたら強いかもしんねぇーな、少し飲んでみるか?」 煙草と違って、お酒はちょっぴり飲んでみたい。ダメだと分かっているけれど、オレはこの場の雰囲気に流されてしまいそうで。 「……あの、本当にいいんでしょうか?」 オレがそう言うと、白石さんはゆったりと煙草の煙を吐いてこう言った。 「飲んでみたいなら、光から一口だけもらえ。マイタイならまだ飲みやすいだろうし、ジュースみたいなもんだから」 白石さんに促され、兄ちゃんは笑ってオレにカクテルが入ったグラスを差し出してくれたんだけれど。 「はい、せい……あ、やっぱやめた。普通にあげるんじゃ面白くないから、せいがユキちゃんに自分からちゅーしたらあげてもいいよ?」 「いやっ、え……むり、ムリ!」 兄ちゃんからのとんでもない提案に、オレはカクテルグラスに伸ばしかけていた手を急いで引っ込めた。 オレからキスなんて、できるわけがない。 白石さんと二人きりのときですら、オレからは白石さんの髪に触れたり、腰に抱きついたりするのが精一杯なのに。 兄ちゃんと優さんがいる前で、堂々とオレからキスをするなんて……考えるだけでも恥ずかしくなってきて、オレは俯いてしまった。 「せい、お酒飲んでないのに顔真っ赤だね。どうする?俺たちの前で、自分からユキちゃんにちゅーする?」 兄ちゃんの問い掛けを完全否定するように、オレは俯きながらぶんぶんと首を横に振る。 「……むり、やらない、しない、できない」 「光にもらえっつった、俺が悪かった。星、そんなに飲んでみたいなら俺ん家来たときにでも飲ませてやっから、今日はやめとけ」 白石さんは俯いたオレにそう言うと、たくさんの料理を少しずつ一つのお皿に取り分けてくれる。白石さんはどうやら、オレよりオレの機嫌の取り方を知っているみたいだ。 でも、そんなオレと白石さんの反応を面白く思わない人間もいるから。 「えー!!つまんないっ!!」 兄ちゃんは持っていたグラスの中身を全て飲み干すと、ブーっと膨れっ面で白石さんを睨んでいた。 「光、星君が可哀想だ。これ以上はやめてあげなさい。王子様の命令に従うのは、執事の俺だけで充分だ」 「優ってば、ホント良い子だね」 不貞腐れている兄ちゃんの肩を抱いて、宥めてくれたのは優さんだけれど。優さんの言葉と兄ちゃんの態度があまりにハマりすぎていて、オレは目をパチクリさせてしまったんだ。 「ほら、おいで王子様。次、何を飲むのか決めようか」 優さんは兄ちゃんにアルコールのメニューを見せると、兄ちゃんと一緒に次のドリンクを決めていて。 優さんに王子様と呼ばれてすっかり機嫌が直った兄ちゃんは、それからはずっと楽しそうにお酒を飲んでは笑っていた。

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