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第176話

【雪夜side】 ランの旨いメシに感動し、優には丁寧に挨拶をして。兄の光に容赦なく遊ばれた星は、限界を迎えそうだ。 本当なら、二人きりなら、もっと可愛がってやれるんだが。俺が星に近づきすぎると、またいつ悪魔が笑って実の弟で遊び始めるか分からない。 そのため、星がキスを拒否したあとからは、なるべく俺から星に触れないように気を配っていたんだが。 それを寂しく思ったのか、単純に眠気に勝てなかったのか……星の考えは定かじゃないけれど、俺は呟かれた仔猫の言葉を聞き逃さなかった。 そうして。 差し出した俺の手の甲にキスでもするように、薄い皮膚を小さな歯で手繰り寄せ、カプッと噛みついた星くんだったが。 数秒後には噛む力も抜けていき、俺の手には星の柔らかな唇の感触だけが残っている。一定のリズムで奏でられる呼吸音は、仔猫が眠りに就いた証拠だ。 星が俯いていたこともあってか、長い前髪で隠れたままの口元に友人二人が視線を向けることはなく、俺が大人しく仔猫に噛まれていたことを知る人物はいないようで。 身体が痛くならぬように、完全に眠ってしまった星の体勢を整えていると。 「あれ、せい寝ちゃったの?」 俺の肩から腿に頭を移動させてやり、ゆっくりと倒れ込んだ星が膝枕の状態になったのを見て、光がそう問い掛けてきた。 「あぁ、寝ちまった」 そんな光に返答をし、俺は眠っている星の髪をそっと撫でてやる。 「せい、とっても幸せそうな顔してる」 「それを言うなら、雪夜もだ」 「優がいたから、それなりに緊張してたんだろうね。ユキがいなかったら、優の前でご飯も食べずに固まってたと思う……お人形さんみたいに、ね」 星が寝静まっていなければできない会話の内容 と、ソレをしっかりと感じさせる光の声色。空気を変えた男の呟きに、俺は首を突っ込んだ。 「ソレ、俺すげぇー気になってたんだけど。普段の星って、どんな感じだ?」 弘樹も星が人見知りだと話していたが、俺にはそんなふうに見えなかった。俺といるときの星はよく泣くし、よく笑う。初めて会ったときから感情丸出しだったし、ランと会ったときも幸せそうに笑っていた。 人見知りで、お人形。 俺の中での星は、どちらにも当てはまらない。 「うーん……基本的に、初めて会う人とは必要な挨拶以外は喋らないし、笑わない。実際、今日だって優とはそんな感じだったでしょ?」 「確かに、挨拶以外の会話はしていない。だが、光から聞いていた星君の印象とは違っていて少しばかり驚いた」 優も俺と同様、光から何千回と聞かされていた星の様子と、実物とのギャップに違和感を覚えていたらしい。 「正直、ユキの話を聞いた時は意外だった。ユキには、怒ったり泣いたり笑ったり……せいは、ユキのことが好きで仕方ないんだなって」 光の言葉を受け入れながら、俺は煙草の箱に手を伸ばす。俺のこの行動はもちろん、照れくささを隠すため。 「俺の勘でしかないけど、たぶんせいはユキに一目惚れしたんだと思う。ユキの色気って目を惹くし、せいが今までに出会ったことのないタイプだから」

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