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第177話
「箱入り娘のお嬢様が、不良の優しさに惹かれる感じか。ゲンイロス効果のようなものだな、雪夜にはその要素があまりにも多い」
「ユキはユキで、自分に見向きもしないせいが欲しくて堪らなくなった……だから互いに、一瞬で心を射抜かれたのかもね」
勘にしては鋭すぎる、洞察力と思考力。
光の手の上で転がされているような気分は否めないが、褒め言葉だと受け取り消化しようと思った。
「二人の関係に、どうこう言うつもりはないが。星君といる雪夜は、甘ったるい、気持ち悪い」
俺が黙って話を聞いてやっていたのに、余計な口を挟んできたのは優だ。
「光に王子様って平気な顔して言えるようなヤツに、気持ち悪いとか言われたくねぇーよ。しかも、お前らはただのダチだろ……ダチの関係にしては、光への服従心エグくねぇーか?」
光と優のアホで異常な関係性を、オレは今まで気にもしていなかったけれど。自らの意思で王子に服従することを望む執事がいることに、今更疑問を持った俺はそう言い返した。
すると。
「あ、そのことなんだけどね……ユキがこっち側の人になったから話してもいいかなって、優と相談して決めたんだ」
……こっち側の人って、おい。
目には見えない境界線の話を光にされ、俺がいつの間にか向こう側の人間になっていたことを知る。
俺はいない方がいいのではないかと思ってしまうほどに、この雰囲気はマズい。星を好きになって、今まで全く興味がなかった色恋沙汰の空気間を、俺は敏感に捉えられるようになってきたらしい。
と、いうことはつまりだ。
「今まで誰にも話したことはなかったし、話すつもりもなかったんだけど。ユキに時間とってもらった理由は、ゴールデンウィークの話だけじゃなくて……」
そこで光は言葉を詰まらせたが、雰囲気で充分に読み取ることのできる次に続く言葉。
なんとなく、いや、九割方。
言いたいことを悟った俺に、光は俯いたまま話を続けようとしていて。そんな光を余所に、優は俺に視線を向けると目を細めて……一瞬、男の顔をした。
「優とね、その……え?」
俯いていた光の顎を掴み、視界に自分の姿だけを映し出した優は、そのまま光の唇に口付ける。
「んっ…ぁ」
優からの不意打ちのキスに、光は動揺したかのように思えたが……絡まった互いの視線と優の呼吸を受け入れた光は、ゆっくりと瞳を閉じていく。
抵抗するために置かれたと思った光の両手は、優の肩を押し退けることがなく、代わりに首へと回された。
そんな光が逃れることのないように、光の後頭部に触れた優の手。ソレによって乱れた金色の髪は、店内のライトに照らされて輝きが増す。
「ッ、ん…はぁ」
深まる口付けに、光の呼吸が僅かながらに荒くなって。吐息とともに漏れ出る声まで飲み干すかのように、執事は王子の唇を奪っていく。
……すげぇー、優が男らしい。
って、マジかよ。
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