177 / 570

第177話

「箱入り娘のお嬢様が、不良の優しさに惹かれる感じか。ゲンイロス効果のようなものだな、雪夜にはその要素があまりにも多い」 「ユキはユキで、自分に見向きもしないせいが欲しくて堪らなくなった……だから互いに、一瞬で心を射抜かれたのかもね」 勘にしては鋭すぎる、洞察力と思考力。 光の手の上で転がされているような気分は否めないが、褒め言葉だと受け取り消化しようと思った。 「二人の関係に、どうこう言うつもりはないが。星君といる雪夜は、甘ったるい、気持ち悪い」 俺が黙って話を聞いてやっていたのに、余計な口を挟んできたのは優だ。 「光に王子様って平気な顔して言えるようなヤツに、気持ち悪いとか言われたくねぇーよ。しかも、お前らはただのダチだろ……ダチの関係にしては、光への服従心エグくねぇーか?」 光と優のアホで異常な関係性を、オレは今まで気にもしていなかったけれど。自らの意思で王子に服従することを望む執事がいることに、今更疑問を持った俺はそう言い返した。 すると。 「あ、そのことなんだけどね……ユキがこっち側の人になったから話してもいいかなって、優と相談して決めたんだ」 ……こっち側の人って、おい。 目には見えない境界線の話を光にされ、俺がいつの間にか向こう側の人間になっていたことを知る。 俺はいない方がいいのではないかと思ってしまうほどに、この雰囲気はマズい。星を好きになって、今まで全く興味がなかった色恋沙汰の空気間を、俺は敏感に捉えられるようになってきたらしい。 と、いうことはつまりだ。 「今まで誰にも話したことはなかったし、話すつもりもなかったんだけど。ユキに時間とってもらった理由は、ゴールデンウィークの話だけじゃなくて……」 そこで光は言葉を詰まらせたが、雰囲気で充分に読み取ることのできる次に続く言葉。 なんとなく、いや、九割方。 言いたいことを悟った俺に、光は俯いたまま話を続けようとしていて。そんな光を余所に、優は俺に視線を向けると目を細めて……一瞬、男の顔をした。 「優とね、その……え?」 俯いていた光の顎を掴み、視界に自分の姿だけを映し出した優は、そのまま光の唇に口付ける。 「んっ…ぁ」 優からの不意打ちのキスに、光は動揺したかのように思えたが……絡まった互いの視線と優の呼吸を受け入れた光は、ゆっくりと瞳を閉じていく。 抵抗するために置かれたと思った光の両手は、優の肩を押し退けることがなく、代わりに首へと回された。 そんな光が逃れることのないように、光の後頭部に触れた優の手。ソレによって乱れた金色の髪は、店内のライトに照らされて輝きが増す。 「ッ、ん…はぁ」 深まる口付けに、光の呼吸が僅かながらに荒くなって。吐息とともに漏れ出る声まで飲み干すかのように、執事は王子の唇を奪っていく。 ……すげぇー、優が男らしい。 って、マジかよ。

ともだちにシェアしよう!