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第183話
一度合ってしまえば、オレは白石さんの瞳から逃れられない。
なんでこの人は、こんなにオレをドキドキさせるんだろう。ただ、見つめられているだけ……それだけなのに、とてつもなく、愛おしくて、嬉しくて、恥ずかしいから。
「……せーいくん、お返事は?」
「はぃ」
小さい声で返事をしたオレを、白石さんは真っ直ぐに見つめてくる。そのまま視線を逸らすことができないオレは、白石さんの淡い色の瞳に捕まってしまった。
「…ッ」
恥ずかしすぎて、声が出ない。
オレは下唇を噛んで、なんとかしてこの時間をやり過ごそうとぎゅっと目を閉じるけれど。
「可愛い」
オレの前髪を持ち上げていたはずの白石さんの手、その手に頭を抱え込まれてオレは逃げ場を見失った。
「ぁ…ん、っ」
「星」
優しくて甘い白石さんの声と、ソレとは裏腹に重なっていく意地悪な唇。ゆっくり触れ合うだけのキスが繰り返され、オレはブランケットを握る手に力を込めるけれど。
「目覚めの煙草と、星のキスって……最高に旨いな、クセになりそう」
オレの唇を甘噛みしながらも、器用に喋る白石さん。どうして白石さんは、キスしながらでも上手に話すことができるんだろう。
オレは、息をするのがやっとなのに。
白石さんに触れられるたびに、オレの頭は溶けそうになってしまうのに。
今だって、白石さんが欲しくて堪らないのに。
「ッ……あ、ヤベェー。星に夢中で、灰落とすとこだった」
離れた唇を追いかけるように、オレはちらりと白石さんに視線を落とす。すると、吸われていない煙草の灰が今にもボタリと落ちてしまいそうになっていて。
「白石さん、あの……煙草を吸うか、キスするか、どっちかにしないと」
心配して言ったオレの言葉に、今までぼんやりと開けられていた目が開き、ニヤリと口角が上がった。
すっかり短くなってしまった煙草は、ベッドサイドにある灰皿に押し付けられて。灰が落ちることもなければ、火だってちゃんと消えたけれども。
「その選択肢なら、答えはひとつしかねぇーだろ」
「ん、ふぁ…」
さっきまでとは違う、噛み付かれるようなキスに頭の奥がクラクラしてくる。煙草を持たない白石さんの手は自由すぎて、オレの身体はベッドに縫い付けられてしまった。
「んっ…ちょっ、はぁ…」
白石さんが目覚めてから、オレの心臓はドキドキしっぱなしだから。
「星、気持ちイイコト……しよ」
耳元で囁かれた言葉に身体を熱くしたオレは、このまま白石さんと気持ち良くなるのかなって……そう、思ったんだけれど。
───ヴイィィィン。
白石さんのスマホが、音を立て鳴り響いて。
オレの頭を撫でて、スマホに手を伸ばした白石さんは、画面を確認するとなんとも渋い顔をした。
「わりぃーな、お預けだ」
そのあと、白石さんはブツブツと呪文のように色々呟きながら、今日がバイトだということ思い出し、とても不機嫌そうに煙草を咥えてしまったんだ。
煙草を吸う白石さんを眺めながら、オレも少し残念だなって……そんなふうに思ったコト、白石さんには言えなかった。
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