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第184話

すっかり週末の楽しみになった、白石さんとの時間はいつも駆け足で過ぎていく。次に会える日は、来月のバイトのシフトが決定してから分かるから。今頃、白石さんはバイトに励んでいるんだと思う。 オレはというと、自室で明日の支度をしている最中だ。明日は学校があるから、いつまでもフワフワと宙に浮いたような気持ちではいられないのに。 愛用のスクールバッグに明日使用する教科書を詰めていると、オレの髪から白石さんと同じ香りがして頬が緩んでしまった。 昨日の夜はオレが爆睡して、お風呂を逃してしまったから。残念なお預けのあと、心を落ち着かせるためにオレは白石さんのお家でシャワーを借りたんだ。 お泊まりのときはソープ類も白石さんのものを借りているから、白石さんと同じ香りがするのは当たり前のことなんだけれど。それでも、白石さんを感じられる香りが嬉しくて。 「……大好き」 今日の朝、白石さんに言えなかった言葉をオレはポツリと呟いた。 いいなりとか、契約とか。 最初はそんな言葉で繋がれた白石さんとの関係も、今ではちゃんとしたお付き合いになっている。 けれど。 白石さんの全部を教えてくれるって条件だけは、変わることがないんだって。そう感じさせてくれる白石さんの言動が、オレの心に安心感を与えてくれるんだ。 白石さんと一緒に過ごしてみて、分かったことがある。白石さんは、オレが本当に嫌だと思うことはしないってこと。 ダメとか、ムリとか……オレから出てくる些細な言葉のニュアンスを読み取って、オレの反応を一つ一つ確認しながら、白石さんは常にギリギリのラインを責めてくる。 少しずつ、でも確実に。 白石さんは、オレでも良く理解できていない未知の部分に触れていく。そうして、オレが耐えられなくなる寸前のところまで手を引いていってくれるから。 オレが、白石さんを求めているんだって。 今日の朝の出来事で、オレは実感してしまったんだ。 ……だって、あんなのずるいじゃん。 俺だけ見てろって、白石さんはオレにそう言うけれど。オレも白石さんに、オレだけを見ていてほしい。 白石さんの淡い色の瞳に映るオレの姿は、やっぱりまだ直視はできないけれど。オレはもう、白石さんを誰にも渡したくないって思うから。 ……オレも本当は、白石さんと気持ちいいコトしたかった。 恥ずかしくて、緊張してしまうけれど。 白石さんに触れられると、ドキドキが止まらないけれど。 二人だけの特別が増えるなら、オレの知らない白石さんを知ることができるなら。まだ知らない世界でも、恐くないって思えるから。 でも。 いつもオレだけが気持ちよくしてもらっていることに、オレは不安感を覚え始めていて。白石さんにも、気持ちよくなってほしいってオレは思っているんだけれど。 白石さんがしたいからしてるって、だからオレは気にしなくていいって……白石さんはそう言ってくれるから、オレは何も言えなくなってしまう。 でも、本当は。 白石さんの本音は。 ……男のオレじゃ、ダメなのかもしれない。

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