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第185話
小さな不安は、消えないけれど。
やってくる日常に逆らうこともできず、オレはようやく慣れてきた学校生活を送っている。
ただ、いつもと違うことが一つあって。
週始めの月曜日、オレはお昼休みの時間を利用して実習準備室に移動しようとしていた。
「青月くん、もう行くの?」
今日の西野君のお弁当は、可愛いウサギのキャラ弁だ。そんな可愛いお弁当をはむはむと食べている西野君は、オレのことをとても心配してくれていた。
「うん。ご飯も食べたし、ちょっと怖いけど行ってくるね」
このあいだの弘樹のおかげで、西野君とは普通に話せるようになって。オレは行きたくない気持ちを押し殺して、実習準備室へと向かったんだ。
「……失礼、します」
とても緊張しながら扉を開けたオレに、横島先生は座るように促す。オレがここに来た理由は、横島先生に呼び出されたからだった。
午前の授業は上級生の実習だったからなのか、横島先生はいつものジャージではなく、紺色のコックコート姿で。
西野君が憧れる先生の姿はコレなんだっけ、と……そんなことを思いつつも、オレは指定された椅子に腰掛けた。
「先週は、申し訳なかった。生徒にもちゃんと自分の意思があるのだから、尊重してやれと先輩に酷く怒られたよ」
この前のときとは違い、優しい声で話してくれる横島先生にオレはビックリしてしまうけれど。ランさんの計らいの効果が抜群なんだって、オレは内心思ったりして。
心の中で、オレはランさんに感謝を伝えるために深々と頭を下げていた。
「俺は、あの先輩に頭が上がらなくてね。ホテルにいたころ、随分と世話になったんだ。どこでどう知り合ったかは知らないが、料理人を目指すなら俺より先輩に学べ。俺より遥かに厳しくて、優しくて、繊細で……とても、いい人だから」
あれだけ罵声を浴びせられていたのに、横島先生はランさんのことをいい人だと言って微笑んでいる。過去のことは分からないけれど、横島先生とランさんのあいだには色んな事情があるんだなってオレは思った。
「わざわざ休みの時間を割いてもらって、悪かった。話は以上だから、退室して構わない」
「あ、いえ大丈夫です。実習中はちゃんと髪上げるので、これからも……その、ご指導のほど、よろしくお願いします」
オレは横島先生にぺこりとお辞儀をして、準備室を出ると教室へと足を進めた。そうして、心配していた西野君に大丈夫だったと伝えると、西野君は自分のことのように安心してくれて。
午後の授業は、集中して受けようって思っていたんだけれど。授業前に白石さんから送られてきたLINEを見て、オレはまたふわふわと上の空で授業を聞くことになってしまった。
ゴールデンウィークは、バイトなしで確定。休みの期間中、ずっとお前と一緒にいてやれるよって。
白石さんと過ごす始めてのゴールデンウィークは、もうすぐそこまでやってきていた。
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