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第186話

【雪夜side】 ……マジで、休みてぇー。 そうは思ったが、仕事は仕事だ。 朝の出来事を思い返すと、俺は自分の理性を褒め称えてやりたくなる。 己の手を止め、星を家に送り届けて。 ちゃんとこうして、バイトに来て仕事をしているのだから。 欲の限界を通り越し、なんとかして保っていた理性は一度崩壊したけれど。今日がバイトじゃなかったら、たぶん……俺は、あのまま星を喰い尽くしていただろう。 星に合わせて、少しずつ歩みを進めているつもりではあるんだが。まるで俺の理性を試しているかのような煽りをする仔猫に、俺は振り回されてばかりいる。 煙草か、星とのキスか。 スモーカーの俺はそんな二択を迫られ、先のキスで潤んだ瞳と濡れた唇を星から向けられて。あの状況で、好きな相手に欲情しないワケがないというのに。 男同士で繋がる方法すら、理解していないであろう仔猫。そんな星に翻弄されている俺からは、当然のように溜め息が漏れていくけれど。 悶々と考えつつ、店内を回っていた俺は高校生くらいの女に話しかけられた。 「あのっ……コレ、連絡待ってます!」 小さく折りたたまれた紙を、俺に手渡してくる女。断る方が面倒だから、とりあえず受け取りはするけれど。 ……爽やかな笑顔で、笑わねぇーと。 内心、かなり面倒だが。 社交辞令で感謝を伝えてやり、俺は内容も見ずに受け取った紙をポケットに突っ込んだ。 受け取られたことが、余程嬉しかったんだろう。俺の態度を見て、笑顔になった女は軽く会釈だけして俺の前から消えていく。 そんな女の後ろ姿を見送りながら、俺ももう流石に高校生には手を出さない、と。 思った自分に、苦笑いが漏れた。 俺が、ヤりたくて堪らない相手は高校生だ……しかも星は、ピチピチの高校一年生。 「お兄ちゃん、相変わらずモテてんね」 そんな俺の思考を停止させたのは、一連の流れを目撃していた康介だった。俺の後ろからひょっこり顔を出した康介は、俺の肩に顎を乗せて休憩モードに入っている。 「お前、まだ仕事中だろ。サボるな、バカ」 「それはお互い様だろって……白石さぁ、なんか今日のお前、エロすぎ、ヤりすぎ」 ……なんで俺は、コイツに耳元で囁かれなきゃならねぇーんだ。 「仕事中に、ごちゃごちゃうっせぇーよ。離れろや、クソが」 「なぁ、白石ぃー、俺もモテたい!!」 「ん、じゃあコレお前にやる」 手渡された紙をポケットから取り出し、俺は康介のケツポケに用紙を移動させた。 「白石好きの女が、俺に笑いかけるわけねぇだろ……あ、それよりさ、今日バイト終わりに芝公で球蹴りしねぇ?」 そうは言いつつも、しっかりとケツを押さえて紙が入っていることを確認する康介。コイツは本当に、女なら誰でもいいのだろう。 「ボール持って来たんだよ、俺。なんかストレス溜まっててさぁ、相手してよぉー」 「ただのパスパスくらいなら、付き合ってやるよ。俺も久しぶりに、蹴りたい気分だし」 と、いうより。 溜まった欲をどこかで発散しなければ、俺はマジでヤバい気がするから。快く申し出を了承してやると、康介は俺の肩からいなくなって。 「んじゃ、とりあえず残りの時間頑張ります っ!よろしくお願いします!!」 「ん、お願いされてやります」 さも何か頼んだフリをして、康介は手を振ると俺から離れていった。

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