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第187話

芝生が広がる公園で、男二人サッカーボールを蹴り合っている。 「白石さぁー、なんでお前そんなにかっこいいのぉー、すげぇームカつくんだけどさぁー、嫌いなんだけどさぁー、嫌いになれねぇんだよっ!!」 一定の距離を保ち、お互いにパス交換しているが。距離があっても騒がしい康介のストレス要因は、どうやら俺にあるらしく。 「うるせぇー、おら走れッ」 康介から蹴り返されたボールを軽くトラップして、俺は康介と間逆の方向に蹴り上げてやった。俺がストレスだとはっきり言われたら、そのときは康介本人を蹴り上げてやるのに。 「ちょっ、お前そんなカーブかけんなよっ! マジでダッシュしねーと取れねーじゃんッ!!」 俺が蹴り上げたボールを、犬のように必死になって追いかける康介。結局、落下地点まで走り込むことができずに、康介は遠くまで転がるボールを追いかけていた。 「バーカ。お前って、ホントバカ」 久しぶりに、ボールを蹴るのは清々しく感じる。幼いころは日が暮れてもずっと、サッカーばかりやっていたのに。 こんなふうに、夜になって飛んでくるボールが見えなくなっても。公園の小さなライトの下で、リフティングの練習に明け暮れて。 サッカー選手を目指して、ただひたすらにボールを追いかけ走り回って……がむしゃらに頑張っていた幼少期の自分に、少しだけ申し訳なくなったけれど。 ボールを取って戻ってきた康介は、ちょい休憩といいながら、フラフラと公園の端にある自販機に向かって行くから。 俺もその後を追い、自販機の前で項垂れてる康介のケツポケに入っている財布を奪い取る。康介の財布の中身を確認しつつ、俺は勝手に自分用のドリンクを買った。 「白石さぁ、ゼェ…ハァ…マジで、鬼畜。ちょ、俺も一緒ので……いいから、買って」 「鬼畜ってなんだよ。お前が付き合えって言ったから、蹴ってやったんじゃねぇーか。ありがたく思え」 俺は康介にスポドリを買ってやると、自販機の隣にある古惚けたベンチに腰掛け脚を組む。 「っあー、生き返るぅ……白石さ、ゴールデンウィークってシフト入れた?俺、やることなくてバイト詰めなんだけど」 ボールの上に尻をつき、スポドリを一気飲みした康介はそう俺に問い掛けてきた。 「俺、全く入れてねぇーよ。可愛い仔猫が待ってるからな」 「お前、今回マジで惚れてんのな。まだ痕残ったままなの見ちゃったけど、ソレ痛くねぇの?」 「いてぇーよ。まぁ、それも愛だろ」 「うわぁー、俺ムリそういうの。一回だけならまだ堪えるけど、毎回はさすがにきついわ。なんかさ、キスマーク上手く付けれなーいとか言って、甘えてくる女の子が理想だね」 「バカ、そんな女いねぇーよ。そういう女ほど、お前以外の男には平気な顔して痕残してる」 「白石ぃー、俺の理想を簡単に壊すなよぉー」 へなへなと項垂れる康介を余所に、俺は煙草を咥えて火を点けた。

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